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フランスの作家ボーボワールは一九七〇年に著した『老い』で、「人間が最後の一〇ないし一五年の間、もはや一個の廃品でしかないという事実は、我々の文明の挫折をはっきりと示している」と、いち早く現在の状況を喝破(かっぱ)していますね。

私もそれは読みました。小児まひを扱った映画「われ一粒の麦なれど」を作った時に、ニューヨークの障害者センターに行き、所長に会いましたが、こんなことを言われました。"失われたものを惜しむのでなく、自分に何が残されているかを考えるべきである。残っている能力を信じ、それをどう生かすかを考えるべきだ"と。私もそう思います。私が福祉機器に注目するのは、それが残されたものの中の価値をいきがいに変える道具だからなのです。

 

今後、介護はどういう方向に向かうべきなのでしょうか?

私は特定の宗教を信じてはいませんが、今こそ仏教徒が介護問題に参加すべきではないでしょうか。昔は、神社仏閣が、今でいうデイサービスをしていたのです。現在、日本では要介護者が急増していますが、そのための施設は少なく、あっても民間の有料老人ホームは高額の費用が必要です。お年寄りもその家族も大変苦しんでおり、国難の時と言っていいでしょう。こんな時代にこそお寺を開放して庶民のための施設を作るべきではないでしょうか。出でよ、平成の親鸞、日蓮です。昔の僧は、今のジャーナリストであり、時代を引っ張っていました。全国のお寺に、グループホームを作り、社会に貢献してほしいのです。

 

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