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に対して、入居者やその家族から寄せられた苦情は、実に二一万八○○○件を超え、その数は一九八七年の二倍に及んでいる。予算が伸びない中で急増する苦情処理に十分対応できないという声もある。

このように厳しい現実があるものの、総じて介護オンブズマンの活動に対する評価は高い。行政が監督取締機関として施設そのものに対して行ってきた規制とは別に、介護オンブズマンがサービスの受け手である入居者の保護に積極的に取り組んできたことは、あまり目立った政策の見られない米国の介護政策にあって、特筆すべきものの一つであろう。

日本では、二〇〇〇年四月より介護保険制度がスタートする。今のところ、多くの関心(心配)は、サービス量の不足問題であるが、制度がスタートすれば、早晩、その質が問題となろう。制度導入直後は、大小さまざまな混乱を伴うであろうが、時を置かずして、各種の事業者の積極的な参入によってサービスの量は大きく拡大していくと思われる。しかし、それは同時に、サービスの質といった観点から見ると、虐待、放置といった見逃すことのできない問題が生じる危険性が高まってくることを意味する。こうした事態に備えて、現時点から、サービス利用者の立場に立って、どうやって介護の質を確保するのかについて、十分な検討と方策を講じておく必要があると思う。

従来の発想の延長上では、「行政がきちんと取り締まるべきだ」という結論になるのかもしれない。もちろんサービスの質の確保のために基準を作り、その遵守を確保するという行政の役割は重要であろう。しかし、今後、急速に増えていく介護施設や在宅サービス事業者のすべてを行政機関の力のみで、もれなくチェックすることは現実問題として大変にむずかしい。特に、今後、行政改革を通して、公務員の大幅な削減が予想される中では、役所の規制のみを頼りにして、質の確保を図ろうとするのは、無理があるし、危険とすら言えよう。

サービスの質の確保のためには何重もの安全装置が必要である。その意味で、米国における介護オンブズマンの活動は、その安全装置の一つとして大いに参考になるのではないだろうか。

 

 

 

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