普通、入居者は、さまざまな不満や苦情を持っている。しかし、それを直接、施設のスタッフに対して口にすることはむずかしい。文句を言ったことでかえって邪険に扱われるのではないかといった心配が先に立つ。こうした時に、第三者の介護オンブズマンが役に立つ。
オーウェンさんは、ボランティアの介護オンブズマンである。州によって任命され、一〇年以上も、この老人ホームを担当してきた。ニューヨーク州の場合、オーウェンさんのような介護オンブズマンの多くは女性であり、引退した教員や看護婦、ソーシャル・ワーカーなどの場合が多い。「封筒詰め」などの軽作業のボランティアではなく、もっと本格的な活動をやりたいと思って参加する人が多い。ニューヨーク州では、介護オンブズマンの資格を得るためには、三六時間の研修と豊富な経験を持つオンブズマンとの同行訪問を経験する必要がある。
オーウェンさんが、介護オンブズマンになろうと思ったきっかけは、介護していた弟の老人ホームヘの入居であった。彼女は、そこで虐待や放置といった信じられないような現実を目の当たりにし、こうした人々のために支援が必要だと強く感じたという。
オンブズマンとして活動するオーウェンさんにとって、最も充実した瞬間とは、「日頃、家族や友人との接触の少ない入居者の笑顔を目にした時だ」という。多くの介護オンブズマンは、辛い境遇にある高齢者の生活にわずかでも力を貸すことができることを喜びとして活動を続けている。