日本財団 図書館


外部のサービスを利用せず、家族介護で対応するケースも比較的高く、日本と同様に、さまざまなメディアで家族介護の重い負担に苦しむ家族の姿を目にすることも多い。また、老人ホームにおける虐待や放置といった事件もしばしば耳にする。

とはいえ、自由を重視し、政府に多くを期待しない国民性や高い消費者意識などを背景として、高齢者介護、特にその質の確保の問題について、民間ベースで、さまざまな試行錯誤が行われ、中には大変興味深い取り組みも見られる。

その一つが、介護オンブズマンである。介護オンブズマンは、老人ホーム等で提供されるサービスの質をチェックするため、入居者やその家族から苦情を受け、その解決に当たるとともに、自らも抜き打ちで施設を訪問し、調査を行い、必要な改善措置などを施設に勧告するといった仕事に携わっている。彼らは州政府によって任命され、現在、全米で約一万二〇〇〇人が活動している。そのうち、常勤の八六五人を除けば、その大部分はトレーニングを受けたボランティアであり、市民の立場から、介護サービスの質の確保という公益に貢献している。

 

引退した教師や看護婦がボランティアで-

米国の代表的な日刊紙であるニューヨーク・タイムズに掲載された記事「入居者の友人役も兼ねる老人ホームの番人」から、介護オンブズマンの活動の一端を紹介しよう。

毎週木曜日、オーウェンさんは、マンハッタン内にある、とある老人ホームを訪れ、四時間にわたって入居者の様子を見て回る。「正午になってもベッドで寝かせられている高齢者はいないか」「介護スタッフは入居者の尊厳を守って対応しているか。言動やかかわり方に問題はないか」など虐待や放置といった不適切なケアが行われていないかをチェックしている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION