ただ官制、半官制の権利擁護の仕組みには限界がある。東京都千代田区の権利擁護センター「すてっぷ」のオンブズマンを務める高村浩弁護士は次のように話す。
「介護保険の始まる前の現在でも自分が受けている介護サービスに不満を持つ人は多いはずですが、そういう内容の相談は非常に少ない。相談の電話を待っているような現状では心身が衰えた人からの苦情を十分に汲み取れません」。また「行政からお金をもらって運営する相談機関では利用者の立場になりきれない。個人の権利よりも公共の福祉の方を守ってしまいがちです」。施設オンブズマンも全国に十個所程度できているが問題点も多い。施設のオーナーが自らの施設の運営や提供するサービスの質や入居者の人権擁護をチェックするという自己完結的な仕組みに多くを期待すること自体に無理があろう。
Sネットは一九九八年三月、全国の高齢者施設、障害者施設、自治体の関係者らに呼びかけ、横浜市で「全国福祉オンブズマン会議」を開いた。実行委員長を務めた上田代表は障害者・高齢者総合施設の施設長でもあるが、三百人の参加者に実情をこう語った。
「福祉施設のオンブズマンは施設長の諮問機関になっているところが多いため、身内意識からのかばい合いによってチェックが甘くなりがちだ」。入居者の権利擁護についての問題点を共有することによって施設に対して第三者的な立場を保ち、オンブズマンの選考を含めて活動自体を社会化し、さらに権利擁護の意識を地域全体に広めていくためには複数の施設がネットワークして実施する地域型オンブズマンが望ましい。国のオンブズマン調査もそれを物語