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施設の中では、一人のお年寄りも幸せにできない

阪井さんは愛知医療学院を卒業後、八年間老人保健施設(老健)で理学療法士として働いてきた。そんな彼女が、『にぎやか』を開こうと思ったのは、施設福祉に限界を感じてのこと。「老健は病院と家とを結ぶ中間施設として、家に帰るための機能訓練を主体とする場所なんですが、私が就職したのは、ちょうど、老健の制度が歩み始めた時期だったので、当初は、夢と理想に燃えて、燃えて。在宅での生活を支えるために、機能としては理想的な役割を果たす施設のはずだと。でも、制度や施設が整うにつれ、どうしても管理とか運営が優先されるようになってしまったんです」

たとえば、施設の中に一〇〇人という数のお年寄りがいれば一〇〇通りの生活があるはずなのに、施設という箱の中に入ってしまえば、食べるものも、食べる時間も、お風呂に入る時間も何もかも一緒になってしまう。そういうことに、阪井さんは違和感を感ぜずにはいられなかったという。

「それに、施設の中では業務の流れが第一で、一人のために特別なことをしてあげるわけにはいかない。だから"便で汚れたのでおむつを取り替えてくだはれ"と言われても、"あと一〇分でおむつ交換が回ってくるから、それまで待っとってね"と平気で言えるようになってくがね。おむつの中に便があったらどんなに気持ち悪いか、そういう思いを酌めなくなってしまうんですよ」

 

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敬老会の余興で踊るのは、スタッフの菅田さん(左)と中山さん(右)。若いスタッフが多いのも『にぎやか』の特徴だ。

 

それでも、お年寄りが自ら望んでここに来たのであれば仕方がない。だが誰一人として自分で選んで来た人はおらず、みんな家に帰りたがっていた。そして、家に帰りたいと言って徘徊してあばれるのを毎日必死に食い止めている自分の姿を見て、「一体、何をしとるんだろう」と、込み上げる虚しさを押さ

 

 

 

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