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西区の奥の千軒を超える大規模仮設住宅では、震災の年は三人の孤独死があったが、その後はない。「阪神・高齢者障害者ネットワーク」の黒田副代表は病院の看護婦だったが、職をなげうって、西神の仮設に定住、二四時間ケアのボランティアをしている。

ふれあいセンターでの喫茶サロンは珍しいことではないが、巡回を絶えず行い、少しでも様子がおかしいと思うと、夜中でも訪問する。新聞、雑誌を見にセンターに来るように誘う。人とふれあうことなく人は生きられないと、声をかけることを怠らない。ここでは最初の年に孤独死が出たことで、まず安否確認がボランティアの目標になった。

しかしどこの仮設もこのような対応ができたわけではない。自治会運営もままならなかったところもあった。

暑い日に、西神の仮設団地を訪ねてみると、三分の一空き家になった土地は、人気もなく、木陰もなく、まるで砂漠のように感じられた。ふれあいセンターにはちょうど掃除をしている若いボランティアの女性たちがいて、救われたような気がした。尋ねてみると、ここでは献身的な訪問ケアがあって、孤独死はないとの答えが返ってきた。

「ずっとお世話してきた高齢の女性が、ちょっとの合間に息を引き取られたが、これを孤独死といわれるのは当たらないと思う。マスコミは何でも同じ扱いにするが、こういう死に方は、どんな時代でもあることでしよう」

一元的な「孤独死」の報道の陰で、支え合ってきた周囲の人々は報われない思いを複雑に心に宿す。

しかし特に孤独死の大半が無職の男性だというのは、これまでの男社会のツケといえるかもしれない。男は、「取り敢えず生きていく」のが下手だ。この世は仕事の成功や、功名だけではなく、生きていくだけでも値打ちのあるものだと思えなければ、自分からあの世に乗り出していくことになるだろう。

孤独死した中年の男性の多くは、家族からも世間からも、いわば縁の切れた状態だった。かつての日本には世捨て人の人生があったが、現代には、社会で生き抜くか、生を捨てるかしかないのだろうか。

 

 

 

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