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できたという。病院には周辺の仮設住宅から通ってくる人も多い。孤独死についての医師の意見を聞かせてほしいとお願いした。

上田院長は、「孤独死には二種類ある。高齢者の孤独死と、働き盛りの中年男性の孤独死は分けて考える必要がある。たまたま独りで亡くなったといっても、ほったらかしだったというわけではないものもある」と語る。上田医師の患者も三人が亡くなった。

平均寿命に及ばぬ若い死は、実はほとんどがアルコール中毒なのだという。震災後の仮設住宅では、低所得者層、自助努力の困難な人たちが多く入居し、不安定な生活の中で、閉じこもりがちとなり、一人で死亡する例が顕著になった。

兵庫県警によれば、同県内の仮設住宅での孤独死は二三〇名を超えた。すべてが高齢者というわけではない。上田医師の話にあった通り、働き盛りの世代も含まれている。そしてその四〇代、五〇代の孤独死は圧倒的にアルコール依存症が多いが、日本ではアルコール依存症の専門医が非常に少なく、十分に対応できないのである。

 

阪神大震災「孤独死」

病死男性の4割 大量飲酒の習慣

神戸大調査(98年9月16日付産経新聞)

阪神大震災の仮設住宅で、だれにもみとられずに死亡する「孤独死」のうち、病死男性の四割近くがアルコール依存症か、大量飲酒の習慣があったことが、上野易弘神戸大医学部助教授(法医学)の十五日までの調査で分かった。事故死の中にも、酒に酔って転んだり、ふろでおぼれたりするケースがあり、上野助教授は「仮設住宅が抱えるアルコール問題は深刻だ」としている。(中略)

死因別にみると、病死が二百五人、自殺が三十人、事故死が八人。病死のうち、男性は百四十五人。この中で三七・二%(五十四人)が、アルコール依存症と診断されたことがあるか、習慣的に大量に飲酒していたことが分かった。(中略)女性の場合は、病死の六十人のうち飲酒に問題があったのは四人(六・七%)にとどまっている。

 

 

 

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