連載 笑う門に福来たれ
オウム『江戸のこばなし』より No.7
「俺はオウムを飼ってるのだが、こいつがおもしろいやつで、人が遊びに来て、話をし始めようとすると、奇妙なことに、俺の思っていることを何でもかんでも俺に代わってしゃべってくれる」
「ばかばかしい。オウムが口真似(くちまね)をするという話はよく聞くが、なんぼなんでも心に思っている事までしゃべれるはずがない」
「いやいや、うそではない。うそだと思うのなら晩にでも見に来るがいい」
そこで、相手の男がさっそく出掛けて行って見てみると、鳥籠の中のオウムが、
「よく来たな」と声をかける。
「どうだ、うそではあるまい」
男が度肝を抜かれ、
「なるほど、こいつは奇妙だ!」
と、あっけにとられて見ていると、
「おーい、お茶を持って来い。それにたばこ盆も持って来い」
と、何もかも、主人の思っていることを主人に代わってしゃべり出す。
男が、たばこを一服のみながら、感心してなおも見ていると、オウム、男の顔をじっと見て、「もう、いい加減で帰ったらどうだ」
(『高笑い』安永五年・一七七六年刊)
● まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」。人の心の奥は覗いてみたい気もするが、本心がわかり過ぎるのも困りもの? やはり「知らぬが仏」・・・。
● 江戸時代、町人の間で広く愛された「小咄(こばなし)」。短い話の中に人情や世相の機微を取り込みながら、おもしろおかしく結末を結ぶ。世の中ははるかに変われとど、当時のこばなしは、時空を越えて現代の私たちにも粋な笑いやぺーソスを届けてくれる。山住昭文氏による著作から毎回連載でお届けする。
● 『江戸のこばなし』(定価1100円) 山住 昭文著
原作の味わいを残しながら、現代の読み手にもわかりやすく手を加えた軽妙な文章の1冊。筑摩書房から好評発売中。