日本財団 図書館


か"コサイン"(cosine余弦)なんかがでてきて、もう、何のことやらさっぱり。なんでこの年になって、一番嫌いだった数学なんてやらなあかんのかと、頭抱えました。それでもなんとか卒業できたのは、主人の励ましのおかげ。ある時は、"今日は暑いからやめときいな。家にいたら涼しいで"と声をかけられ、夏休みや冬休み明けには、"もう、やめたんちゃうの?"と聞かれる。私、あまのじゃくやから、そういわれると意地でも、続けようと思うんですわ。さすがに、妻の気性をよう、知っておりました(笑)」

 

きめ細かな心配りを忘れずに、信頼度を高めたい

「大工はスミ(墨・角)で泣くといわれてますが、女性は丁寧に仕事をするから、角もピタッと合う。きちんとした訓練さえ受ければ、十分、女性でもやっていける。今は、自信を持ってそういえます」と、横田さんはいう。

こうして名実ともに『京女工房』の代表者となった横田さんは、卒業をきっかけに、さらなるステップアップをめざして、この六月から横田工務店内にあった『京女工房』の事務所を独立させた。そして、仕事をする中で、高齢者や障害者のための住まいに関心を抱くようになったことから、今後は、車イスの移動が可能な住宅へのリフォームなどに力を入れていきたいと抱負を語る。

「大工というのは、主婦の経験が生きる仕事。まだ、スタートラインに立ったばかりやけど、勉強したことを生かして、台所やトイレなどの相談に応じるなど、かゆいところに手が届くようなきめ細かな建築をしていきたい。それとともに、事業主として、伝統的な日本の大工の技術を伝え、後継者を育てるのも大切な仕事だと思っています」

自ら望んで代表者になったわけではないが、横田さんは与えられた役割を前向きに受け止めることによって、自らの人生を変えた。

「今までは主人の影で、"主人があって私がある"という感じでしたけど、これからは私は私の人生を持たなあかん。代表が中途半端なことしてたら、回りも、中途半端でええやんかということになりますから、寄る年波に負けず、がんばらんとね(笑)」

横田さんのはつらつとした姿は、これまで男の世界だった建築の現場に新風を吹き込むにとどまらず、人生に遅すぎることはないと、多くの人に勇気と希望を与えてくれるに違いない。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION