日本財団 図書館


さわやか談義

 

 

介護保険-。自分で自分の生き方を選択できるように

 

049-1.gif

井上 千津子さん 東海大学教授/全国介護福祉士・介護福祉研究会会長

 

(プロフィール)長野県塩尻市生まれ。74年から新潟県上越市でホームヘルパーに従事、90年から介護福祉士養成専門学校・大学非常勤講師を経て95年4月から東海大学健康科学部社会福祉学科教授。また93年6月より全国介護福祉士・介護福祉研究会会長も務める。近著に『わたしのホームヘルパー宣言』(インデックス出版)。

中学校の教員から家庭奉仕員(ホームヘルパー)に転身。介護福祉士の資格を取って介護福祉士の研究ネットワークを立ち上げ、さらに父親の介護にも携わるなど二五年間、在宅介護一筋の井上手津子さんに、介護の社会化と家族介護のつながりについて語っていただいた。

(インタビュアーは尾崎雄)

 

薄暗い部屋に見た老人介護の実体

井上さんはかつてホームヘルパーをなさっていました。まずはヘルパーさんから大学教授に華麗な転身を遂げたいきさつを。

最初は中学校の教員をしていたんですが、人生の終わりを見たいという思いがしていたとき、家庭奉仕員の募集に応募したんです。ヘルパーになって初めて伺ったおうちで非常なショックを受けました。忘れもしません。小さな薄暗い部屋に手足が拘縮(こうしゅく)して褥瘡(じょくそう)で衣類が汚れているお年寄りが目だけをギラギラ光らせていました。枕元に小さなおにぎりがふたつと冷めたお茶が吸い飲みに入っているだけ。足がすくみ言葉もでませんでした。これが人生の終わりか、しかし、これを見逃すと一人の人間として、ささくれだった生き方になっちゃうんじゃないかと思ったのが、この世界にどっぷり漬かる出発点になったんです。

 

それからヘルパーの社会的地位を高める仕事に打ち込むんですね。

人生の終わりを看取り、弱い命を守る職業であるヘルパーが大切にされなきゃおかしいと感じたのです。まずは自分たちのやっている仕事を広く知ってもらい、高齢者や障害者の方の生活支援を地域の共通課題にしていくために『ヘルパー奮戦の記』という本を書いたら毎日出版文化賞を受けました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION