次に紹介するのは、パラグライダーで着地に失敗したロクさんが、背骨を骨折して入院したときの実話エピソード。"病院編臨時号"(平成十年三月十三日発行)に掲載された。
● ナースさんの問診があった。「入院して経済的に困りませんか」と聞かれた。
「困ります」というと「クス」と笑う。他人が困ることで笑われんろう(笑ってはいけないだろう)。
「趣味は?一番好きなことはなんですか?」と聞く。若い女の子の前で、一番好きなことは言えん。二番目に好きなことからいうことにした。
● 普通、介護の人がする排泄物の始末を飄々としてやっている、ナースさんの献身的な姿勢に感心した。若い綺麗な娘さんのウンコなら、当のロクさんじゃち喜んで始末するけんど。私ら老人の「ウンコの臭いはきつい」
それなのに、飄々としている。ありがたく頭が下がる。ありがとう。
瓦版は年間三〜四回の不定期刊で、これまで二〇号を発行。ワープロ原稿をコピーした一五〇部が、地元の高齢者や、ふるさとを懐かしみながら都会で生活する人たちにも配られる。経費はすべて自費で賄う。瓦版が発行されると、「この記事は、わたしのことだ」「この前ロクさんに話したことが載っている」と、普段は寡黙なお年寄りも興味津々。話題の少ない山奥でひとしきり会話が弾む。せめて心の過疎だけでもくい止めたいとはじまった瓦版。「この瓦版がもとになって少しでもふるさとに温かいふれあいが蘇ることが私の願いです」
ロクさんは、おおまじめで艶話やほら話に取り組み、山あいの家々に一風の温かい風を送り続けている。