ロクさんとは、地元の方言で「ろくでなしさん」という意味。
標高五〇〇メートルほどの中山間部で、約八○○○人の人口を、八〇余りの小集落で分ける過疎地。ロクさんはそこで山林管理の仕事に携わるかたわら、『ロクさんのふるさと便り』という瓦版を自ら発行している。
ロクさんの家がある中村大王の半数以上の住民は六五歳以上の高齢者。五〇代のロクさんは地元では「鼻たれ小僧」といわれている。果たして二一世紀まで集落として持ちこたえられるかどうかの瀬戸際の町だ。
「たぶん集落の終焉を見届ける一人になると思います、ここから海外や都会へ出て大成した友人もいるけれど、私には私の役目がある。集落とそこに生きた人を記録するということです」
ロクさんのその決意が『嶺北ひそひそ話』という本を出版させた。山棲みの人々の素朴な日常が、絶妙なユーモアで綴られ、県内でベストセラーとなった。前述の『ふるさと便り』は、この本の趣旨をそのまま引き継ぎ、より手軽な読み物としてスタートしたものだ。
取材も編集も配付もすべてロクさんひとり(地元の人へは手配り、遠方は郵送)。山あいの急斜面にへばりつくような集落を、上り下りしながら、お年寄りの思い出話や、山仕事の仲間に伝わる話を集めて、ロクさん流のユーモアで味付けする。だが、役に立つ話やためになる記事は全くない。ひたすらおかしくてナンセンス、ちょっとエッチで辛辣な小話が盛りだくさんに載せられている。ロクさんを主人公にした、方言を駆使した(?)日記風というところがミソ。