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牧場には夏ともなると大勢の人たちが訪れる。

 

「気がついたら、世の中の風向きが変わっていたんですワ。同じことやってるのにねェ(笑)。農業をやるにも商売をやるにも、資本が一番大切だといわれる。でも、私の一番の資本は金ではなく、自然をいかに理解するか、それがすべて。そうすれば、金なんか一銭も無くても山は拓ける。ところが、ただ高度な技術に金をかけて、労力を使ってやっていると、必ず限界が来る。しかも自然破壊にまでつながる恐れがあるし、現に、今日の環境問題も効率優先で来た結果じゃないですか」

いま、齋藤牧場は、一般の人たちに全面的に開放している。ハイキングや遠足などで訪れる人、山菜採りにやってくる人もいる。さらには、齋藤牧場に魅せられた人たちが齋藤さんの許可を得て建てた山小屋も七棟ほど建っており、教会まである。齋藤さんは、十数年前から、場所を無償で提供しているのだという。その代わり、オーナーが使わない日は、一般の人たちに開放するのが条件だ。

「私が開拓農業に行き詰まったのは、自然に対する自分の勘違いが原因だった。そして見方を変えてみたら、山は宝物のような存在だと気づいたわけです。だから、山は、自然はこんなに素晴らしいものだと、みんなにも知って欲しくてね。どこで聞きつけたのか知らないけど、農業関係者だけでなく、いろんな人がワサワサここにはやって来ますよ。人間関係に悩んだ人、仕事のストレスを抱えた人・・・・・・。でも、山に登ったり、自然に触れると、みんな生き返るんだなァ。人間賢くなり過ぎたらダメ(笑)。直感よりも理屈で考えちゃうから。あんまり管理し過ぎちゃうと、本来持っている直感力や本能がマヒしてしまいますからね。牛の管理でいちばんいいのは、放牧。人間だって牧場で放牧されりゃあ生き返りますよ」

アハハハハと、大きく笑ってこう語る齋藤さん。自称、「ただの山の牛飼いおやじ」は、ひょうひょうと自らの意思を貫き通す人生の達人でもあった。

 

 

 

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