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手をかけると、やがて必ずしっぺ返しを食うと思うんですよ。とはいえ、山を拓(ひら)いて牛を使った農業をはじめた当時は、わからないことだらけでしたから、迷ったときは、見えてくるべきものが見えてくるまで待とうと考えて、仕事はいつも五〇%で放っておいた。そうして時間をかけて、山、草、牛の状態を観察していると、そのうちおのずと答えは出てくるもんでね。それに応じて手を打つんです」

農業に限らず、人はとかく、便利なもので、てっとり早く結果を出そうとしがちだ。だが、時には立ち止まることで見えてくるものもあるということか。さらに、齋藤さんの姿勢には、"農業はこうあるべき"という固定観念もいっさいない。

「固定観念を持つと、新しいことなんて何もはじまらないし、すぐに結論を出してしまうと大きな視野にはつながりませんからね」

実は自分のやっていることが、ニュージーランドなどの牧場で行われてきた「蹄耕法」と呼ばれる牧草地の育成方法だと知ったのは、ずっと後になってからのことだった。

 

これからは、人間を放牧する牧場をつくらなきゃいけない!

さんざん異端児扱いされた齋藤牧場だったが、いまや山地酪農のモデル牧場として、牧場内には(社)日本草地畜産協会の研修施設までが建てられ、多くの酪農関係者が訪れるまでになってしまった。農林水産省も「むずかしい中山間地で経営に成功した先駆的な農法」と評価する。こんな風になっていちばん驚いているのは、当の齋藤さん自身に違いない。

 

 

 

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