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し市町村を実施主体に提案するなど公的介護保険の枠組みが一通りそろっている。そこには若手官僚がめざす理想的な社会的介護の体系が描かれていた。

しかし、若者の理想は必ず現実の壁にぶつかるのが常だ。第二幕の老人保健福祉審議会で介護保険構想は振り出しに戻った。

「高齢者介護・自立支援システム研究会の報告を下敷きにする法案づくり」はよくないと、審議会は介護をめぐる状況認識から審議しなおす羽目に陥った。その後"若き獅子たち"は、与野党の枠組みを超えた新世代の政治家に助けられ、医師会や労働組合などとそれぞれ「何百時間もの議論を重ね」、市民グループと手をつなぐなど「反対しない全ての人々を味方に引きつけ」ながら法案成立にこぎ着けた。

「明け方の三時まで働いて、その朝の八時には登庁する」ほど奮闘した当時のキャリアたちの多くは介護対策本部を離れたが、Cさんは「国民のみんなでつくった制度だから一生かかわっていく」と言う。

かくして少死高齢社会を支えるための「福祉のパラダイム転換」というシナリオは貫かれた。官僚の意のままになる社会は困るが、既成概念にとらわれず、市民との共闘も厭わぬ新しいタイプの官僚がいなかったなら「パラダイム転換」はむずかしかっただろう。

介護報酬の算定、六段階式要介護認定の妥当性から地域格差の拡大など介護保険を実施するまでにクリアすべき問題点は山ほどある。若き官僚たちの理想からスタートした公的介護保険が、本当にすべての国民の幸せをもたらしてくれるかどうか-。その答えに向けた取り組みは、まだようやくはじまったばかり。行政にわれわれ庶民の声がどのくらい届くのか、その声がどのくらい反映された制度が構築されるのか、その過程の監視役は私たち市民である。

 

 

 

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