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介護保健は福祉思想の大変革

公的介護保険の特徴の一つは法案成立に市民団体が参加した初の法案だったこと。市民側リーダーの一人である池田省三地方自治研究所政策研究部長は、介護保険法案の成立過程を四幕のドラマになぞらえる。

第一幕の舞台は厚生省。第二幕は老人保健福祉審議会の審議。第三幕は連立政権での各党プロジェクト。第四幕は1万人市民委員会である。

第一幕は一九九二年に上がる。舞台は、かの岡光序治老人保健福祉部長主宰のインフォーマル(非公式)な勉強会、「高齢者トータルプラン研究会」である。若手官僚たちが福祉の基本的な枠組みの転換について自由に議論した。ここでまとまった『高齢者トータルプラン研究会報告書』の中でひときわ目を引くフレーズがあった。

「福祉のパラダイム転換」-。

「パラダイム」とは、ある一つの時代の人々のものの見方・考え方を根本的に支配する思考の枠組みのことを言う。高齢者介護の仕組みの改変に取り組んできた厚生省の若きキャリアたちは、「意識革命」という言葉をよく口にするが、その原点はここにある。

福祉のパラダイム転換とは、「オカミが税を使って少数の弱者を救済するという古典的な福祉思想を切り捨てて、国民全部がお金を出し合って助け合う」という社会保険の仕組みを導入する-ということだ。そしてこの報告書に初めて、「公的介護保険」の原型が登場する。

さて、従来の法律づくりならば、担当官庁が審議会を用意して法案作成という段取りになるのだが、今回は違っていた。厚生省は一九九四年七月、新たな研究会を設ける。「高齢者介護・自立支援システム研究会」(座長大森彌東大教授)だ。業界代表による利害調整の場としてではなく、介護をめぐる基本的な理念を整理し、現場の考え方を取り込むために、メンバーは研究者・実務家から構成されている。

 

 

 

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