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あらゆる角度からの批評と戦う!?

高齢者介護対策本部には、そんな本音を平気で吐くイキのいい若手キャリアが集まっていた。庁内だけでなく同じ戦後生まれの世代に属する特別養護老人ホームの施設長らとザックバランに語り合うことが多かった。酒杯を手に「古い体質の福祉制度は限界に来ている」とぶつBさんは、福祉制度の平成維新に取り組む"志士"のように見えたのである。ちなみに彼は山口県すなわち長州出身である。

そんな若手官僚の使命感がしみこんだ公的介護保険法案は一九九七年十二月九日、国会で成立、二〇〇〇年四月一日から実施される運びになった。

『公的介護保険導入の政策形成過程』(日医総研)によると法案ができ上がるまでの流れは官僚、政治家、関係団体など「利害関係者が有する政策的な理念の合従連衡のプロセス」だった。国会審議になってからも政党内の保守対革新、世代間、男と女とあらゆる角度からの批判にさらされた。

法案成立までさまざまな勢力がからんできたが、最も革新的なグループこそ介護対策本部に屯(たむろ)する厚生省の若手官僚たちだった。たとえばBさんの補佐役だったCさんは、積極的に革新的な医者や市民グループを法案形成の場に呼び込み、いまでも市民団体の人たちから親しみを込めてニックネームで呼ばれている。介護対策本部のメンバーの中には「介護の社会化を進める1万人市民委員会」の会員になった人もいる。この委員会は法案に対し「三つの修正と五つの提案」を迫った市民ネットワーク。会員になったキャリアの一人に「思い切ったことをしましたね」と尋ねると、彼は「そうですかね?ぼくだって市民の一人ですよ」と平然と答えたものである。

 

 

 

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