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堀田 悲しいお話ですね。

橋本大 ええ。そのお医者さんは、それまでとにかく医療とは病気を治すことで完了だと考えてきたというんですね。自動車工場でいえば、故障を直して工場から出せばそこで終わり。でもよく考えれば、町の道がガタガタなら、どんなに車を直しても乗り心地は悪い。同様に病気が治った方のアフターケアを地域全体で考えるシステムがないと、医療自体が完結しないんじゃないかと。まさにその通りだと私も思うんです。医療でも福祉でも、専門を越えて地域全体で連携し合う仕組みが必要なんです。ちなみにその方はそれから市民運動を起こし、文化ホールをつくって音楽会の開催などをはじめられました。

堀田 すばらしいですね。福祉でいえば、もちろん介護は重要で、体が動けないときに「心が先だ」といっても通じません。いろいろ問題点が挙げられていますが、介護保険が制度化されて基本的介護の環境が改善されることは大きな前進です。ただぜひ行政の方も体だけでなく心のケアも大切という点を忘れずに、そういう活動をする市民団体への支援や連携も積極的にすすめていってほしい。

橋本大 ぼくはいつも「医療は治療の時代から予防の時代への転換が必要だ」といっているんですが、介護も同じじゃないでしょうか。後追いの発想から脱却して、もっと日頃のメンタルの部分を向上させる。少しでも要介護状態を緩和できるような心の状態をつくり出すシステムが必要ではないか。しかしそれは行政のサービスとか介護保険の中だけではできかねます。そこをやっていただくのがボランティアの面ではないかなと。

堀田 (大きくうなずく)

橋本大 私は昭和二二年生まれですが、その頃に比べると、日本人の平均寿命はわずか五〇年で三〇歳も延びています。不老長寿は人類長年の夢ですから、その長寿を獲得できたことは本来喜ぶべきなのに、実際はなんとなく暗い雰囲気がつきまとっている。その理由はなぜかというと、日本では戦後、欧米の二倍から五倍ぐらいのスピードで高齢化が進みました。それに社会の仕組みが追いつかずにさまざまな問題が生じております。その仕組みをなんとか欧米並みに

 

 

 

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