基本的に我々は自然という動かしがたい大きなものをフィールドとして、そこで子どもたちにいろんな体験的な活動をさせて、子どもの中に日常的にはない何かを植えつけて帰そうということがねらいですね。
そうなったときに、自然というもの自身は常に変化していくものであるということが基本的にありますね。それから、大きさとその深さがあるということ。変化するということからいくと偶発的な要素がたくさんある。ときによってはリアルタイムで、その場で判断しなきゃいけないものがある。それから、相手には、命というとちょっとオーバーですけれども、要するに、相手は樹木にしても、あるいは天候にしても、生きている、それに命があると言えば、そういう表現ができる。そういうものの中にほうり込んだときに、子どもたちが、今、伊藤先生がおっしゃったような絶対的な存在としてのあるものを感じながら変わっていくというところがあると思うんです。
例えば、これは大変に難しい葛藤なんですが、12時間程度子どもをたった1人で森の中で生活をさせるという活動があります。ソロ活動と言っていますけれども。これは、子どもたちにとっては大きなプレッシャーになります。小学校の低学年ではできませんけれども、 5年生以上から中学にかけては十分可能なわけです。
一定のエリアの中で、2食ないし3食の食糧を持たせ、飲料水を持たせ、寝袋を持たせて、2メートル四方ぐらいのシートを持たせ、4〜5メートルのロープを持たせ、ホイッスル、あとは若干の甘いものといいますか、お菓子類ぐらいしか持たせない。その中で、少なくとも隣から100メートル前後隔離した状態で、あるエリアを決め12時間生活をさせる。12時間ですけれども、この活動をやって帰ってきますと、子どもたちの変化というのはすごい大きなものがあるんです。
それはどういうことかというと、ちょっと整理したものがあるのですが、1つには、頼る者のいない状態から自分自身の判断力と行動力を自覚するようになる。自分で処理しなければ、自分で12時間のプログラムをつくらなきゃいけないわけですから。それから、個から集団に戻りますね。12時間ですけれども、個から集団に戻ったときの安心感と心強さみたいなものを子どもたちが持つ。ということは、仲間とか集団の大切さというのをすごく実感するんです。それまでやや逸脱行為をやっていた子どもが、帰ってきた途端にグループ活動がちゃんとできるようになる。帰属意識を持つといいますか、そういうものが出てくる。それから、孤独だとか恐怖心などとの闘いをやって、なおかつそれを克服して帰ってくる。これは、12時間ということは夜もたった1人で寝るわけですから、ガサッと言えば熊が来たかとか、それは怖いんですね、十分寝れない状態の中で。
そういった面で、例えば晴れた夜空を見て、すばらしい星空を見たときに、自然と人間の大きさの違いなんかを実感するみたいで、やっぱり自然はすごいやというようなものを感じる。それから、成就感とか達成感から来る自分自身の自信、自己評価を高めて帰ってくる。僕はやったよ。帰ってきた途端にオイオイ泣く子もいるんですけれども、僕はとりあえず12時間頑張ってやったよという、そういった形のものがあるんですが、それは何かというと、やはり大自然という動かしがたい絶対的な存在との葛藤だろうし、闘いだろうし、そこから受ける子どもながらのものなのでしょうね。