第1章 心の教育と青年の家の教育活動のあり方
千葉大学教授 明石 要一
■1 次世代を育てる心の喪失
文部省の中央教育審議会の「心の教育」の小委員会での基本的な認識は、今の日本では「次世代を育てる心」を失う危機に直面している、ことであった。
これまで日本はさまざまな危機的場面に直面してきたが、次の世代は意識しなくても連綿として育っていた。
戦後50数年間、経済的な危機はあっても社会的な危機には直面してなかった。社会は常に次の新しい世代を育てていた。
ところが、ここ20年ぐらいの間、社会の中に「次世代を育てる心」が失われつつある。そして、その歪みとして子どもたちの問題行動が噴出し始めている。
また、この「次世代を育てる心」の喪失は特定の分野だけにあるのではない。それは、家庭から学校、地域社会、それからマスメディアの世界までにわたっている。まさに構造的な問題となっている。
特定の分野だけに見られる現象ならば対症療法的な対応ですむ。ところがそれが多岐にわたっているとなれば対症療法的な対応だけではすまされない。小手先でない構造的な改革が必要となる。
■2 揺らぐ二つの家族
一番安定しているといわれた家族が揺らいでいる。それは決して日本だけの問題ではなく、先進国といわれる国が直面している問題である。
「次世代を育てる」基本となる集団(家族)が揺らいでいる。
人間は一生のうち二つの家族を体験する、といわれてきた。
一つは、子どもとして生まれてきて成人するまでの家族である。これは、子どもを大人にしていくということから定位家族(family of orientation)と呼ばれる。ここでは子どもを育てることに力点があるので養育家族とも呼ばれる。
二つ目は、定位家族で育った男女が出会い、新しい家族をつくる生殖家族(family of procreation)である。ここは異性の大人が新しい集団を営み、子どもを産み育てることから生産家族とも呼ばれる。
ところが、変化しにくいといわれていきたこの二つの家族が揺らぎ始めている。
定位家族の大きな機能である子どもを一人前にしていく「しつけ」がうまくできていない。家庭の教育力が弱まったと指摘される。子どもは家庭で社会化(ソシャライゼイション)されていないのである。
と同時に若者の非婚化、未婚化、晩婚化による結婚システムの揺らぎがある。こうしたことから家族の崩壊が叫ばれている。
しかし、こうしたこれまでの家族の崩壊は何も日本だけの現象ではない。先進国といわれる国に共通して見られる現象である。
アメリカでは離婚件数が増えている。1950年から1988年にかけて全体で約3倍、18歳未満の子どもを持つ両親の離婚に限れば約3.5倍に増えている。