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そういう意味を込めてグリーンストック運動が90年代に入って本格化し、この2、3年前に県の認可を受けて財団法人の組織ができ上がったのです。この財団法人は阿蘇の12市町村をはじめ熊本市、熊本県、県内の各自治体、主要な地元の銀行等が出資し、これをセンターにして地域づくりをやろうと計画したものです。つまり地域環境を維持し、あるいは活性化していくためには一つの市町村では手に負えないわけです。阿蘇の恵みを受けている人々、企業、行政の連携によって農山村の活性化を図るために、この「阿蘇グリーンストック運動」が始まったわけです。

資料に「阿蘇ニューファームヴィレッジ計画」と書いてあります。これは観光そのものではなく、観光でよさを知った人に住んでもらうという、非常に広がりのある地域活性化活動です。

このグリーンストックの地域活性化活動は、単に物見遊山の観光ではなく、定住やIターン、Uターンを含めた広範囲の、観光でないものも観光の1つの流れに入れてしまうという大きな運動になっています。その原動力とは「自分たちがもう住めなくなってしまう」という危機感なのです。

資料2枚目に移ります。「由布院・親類クラブ」とあります。「由布院・親類クラブ」とは、一言で言えば農村と都市を結ぶネットワークをつくろうとする活動です。今まで由布院に来てもらったお客さんと太いパイプを結んで足しげく通ってもらう、要するにお客さんを確保する戦略ですが、「ムラ業としての観光業」の実践でもあります。

由布院の場合、観光地として有名になるにつれ、二十数年間も農畜産業者と観光業者は対立し、観光によって富んだ部分と農畜産業が廃れた部分とが非常にアンバランスになっていました。しかし、それでは町というものを維持できない、ということに気付いたわけです。そこで、町の住民全員で観光に参加してもらえる仕組みを模索しはじめたわけです。例えば農畜産業の産物を宿で使うシステムを作ったりして、地元の人たちが全員参加できる地域づくりを考えようとしているのです。

これは非常に特殊な事例かもしれませんが、「観光」を観光業と観光客だけに限らない広がりを持った「新しい観光」づくりと考える際には重要な事例です。

これらの事例を見ていくと「観光資源というのは何か」をもう一度見直した場合、それがどういう事情でできたかとか、どういう意味を持っているかということをきちんと説明する。歴史や時間の積み重なりということにもなると思いますが、そういう観光資源こそが人を引きつけるのではないか。つまり、「モノ(物)からコト(事)へ」「空間志向から時間志向へ」あるいは「生活者としての知識が集積したものが観光資源になる」という言葉で表現できます。つまり、生活者がよいと思うものが魅力ある観光資源を生み出すのではないか、と考えているわけです。

一方、観光客のほうも以前の「奇抜さやおどかしの観光」から「やすらぎやなつかしさの観光」を求めている人が着実にいて、徐々にではありますが増えています。空間から時間志向への移行…この場合、時間は見えないものですから、やはり体験しないとわからない。そこで体験型の観光というものが必要になってきます。つまり言いかえれば「時間の消費から体験へ」という観光を考えたらどうだろう、ということです。

 

 

 

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