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分科会B <豊かな資源を守り育てる観光づくり>

担当パネリスト 前田 弘

 

○前田

私の所属する国際観光学科は去年できたばかりの関西で初の観光に関する学科であり、様々な観光関連学問を推進していますが、その開設の目的の一つに「地域の人たちと一緒に観光を考えていく」ことを掲げています。今から分科会でお話しするような内容は、到底今日中に解決するわけではないので、今後何かお役に立てることがあれば当大学には実践経験もあるスタッフが多数いるので、お気軽にご相談いただけたら我々のできる範囲でお答えしたい。それが国際観光学科の機能の一つ、使命の一つと考えております。

資源を守り育てるという視点からみれば観光は番の敵ではないか、という見方もあります。だからこそ、これからの観光とはその地域の資源を守っていける観光、育てていける観光、そういうものを考えることが前提になると思います。

「自然と共生する県づくり」と観光がどうクロスするかということですが、地域資源、観光資源の豊かさや大切さを知り理解するという新しい形の観光のあり方と結びつくのではないか、と思います。新しい観光という視点のもとで、地域資源の新たな使い方ができるというところに来ているわけです。

それでは、地域づくりの視点から見た地域資源、観光資源の保存と活用のあり方について考えてみましょう。たとえば長浜市の黒壁スクエアは、単に観光振興のみを志向したものではなく、自分の地域を見直して地域のよさを再認識していく住民活動が行われている例と言えます。地域の豊かさ、大切さを知る動きを観光の現場に引き上げていくこと、それが「豊かな資源を守り育てる観光づくり」になるだろうと考えています。

ここで、私の調査した熊本県の地域づくりの事例と比較しながら、滋賀県の観光づくりを見直してみましょう。滋賀県は琵琶湖という近畿1,400万人の人たちの水がめを持ち、熊本県は阿蘇周辺1,200平方キロメートルの草原に降った雨を伏流水として熊本市民の上水道機能を有している。

平成8年の熊本県全体の観光客数は4,200万人、これが何と平成9年の滋賀県の観光客総数も約4,200万人という偶然の一致ですね。水というものを介して滋賀県と熊本県の状況は似ていると思ったわけです。

ただし、生活は全然違います。滋賀県では過疎地が今のところ余呉町と朽木村の2町村であるのに比べ、熊本県は全市町村の57%、54市町村が過疎となっています。

熊本県はそういった危機的な状況にあります。そういうところで地域づくりをどうやっていくかと考え、農林畜産業が様々な産業構造の変化や、高齢化や少子化の影響を受けて衰退していったという事情があり、それを何とか活性化していくために、阿蘇の草原を観光資源とし、地域を活性化させるしか手がないのではないかということになったわけです。

そこでできたのが、「阿蘇グリーンストック運動」です。「グリーンストック」は日本語では「緑の資産」と言います。「資源」ではなく「資産」です。「資産」とはお金をもたらしてくれたり、豊かさ、感動をもたらしてくれる「財産」に近いものです。

 

 

 

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