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村の文化団体の活用を考え、歴史劇の中に、配役・裏方も含めて4,000人の役割をつくりました。村のほとんど全員が何らかの形で関わっていく形になりました。夏に開催するので、帰省する子どもたちも親と一緒に出演します。その劇に携わることによって、いつの間にか自分の村の歴史を学んでしまうのです。そしてその村にとって一番大切な歴史的景観である古城を中心とする池のほとりで演技をするのです。今では1回の公演で1万2,000人が入る観客席が簡易的につくられています。まさに、地域の歴史や文化と遊ぼうというものです。

ただし、これはおもしろくないと成立しません。素人芝居ですから、面白くないとすぐに飽きられてしまいます。そこで彼らが考えたのは、パリで一番有名な監督に演出を依頼し、照明、音響、特殊効果、花火なども、今、フランスの最前線にいる人たちにお願いすることです。出演者は村人たちですが、セリフはすべて有名な俳優の声を吹きこんでおき、出演者がそれに合わせて口をパクパクさせるようにしました。そういう野外音楽劇をルピデゥフでは35年間続けてきました。

今では、ひと夏の公演で、村の1年間の予算を超えるだけの収入があり、10年前に財団法人を設立しました。毎年、次の年の公演の準備のために1年間費やされ、そしてそこで得た収益は、その野外劇に使われる費用も含め、自分たちの村をどうするかということや、宣伝費などに使われます。お客さんが来ても泊まるところがないからホテルをつくろうとか、何台ものバスが通るための道をアスファルト整備し、駐車場もつくりました。あるいは宣伝広報のためのFM放送局までつくってしまいました。さらに、その村の歴史を物語る博物館までできたと聞いています。4,000人の村がそこまでやってしまうのです。都会へ出た若い人たちも夏になれば帰ってきて、それに参加する。そんな大きな意味を持った野外音楽劇がそこに完成してしまったわけです。

私は、そのプロセスが大変おもしろいと実感しました。ちょうどその時、私は、富山県・の高岡市というところから、市制100周年を迎えるにあたって、何か町が元気になるようなことをやりたいということで相談を受けていました。本番3年前から高岡の役所の人が集めてくれたオピニオンリーダー30人と、何をやろうか、どんな活性化装置をつくろうかと話し合いました。何度も激論をたたかわせ、先ほど申し上げた賛否両論が起こりました。テーマを何にしようかということもありました。何かわからないけれども、発信性のあるイベントをしよう、各種各層の住民を取り込もう、地域の文化や歴史と遊ぼう、この3つを満足するようなイベントはないだろうかとみんなで考え続けていきました。

ちょうどその時、友人がフランスにこんなおもしろいものがあったといって一冊のパンフレットをくれました。それがルピデゥフの野外劇だったのです。もう即座に飛んでいきました。そしてそのルピデゥフでいろいろ仕掛け・仕組みを教えていただきました。それをそっくりそのまま富山県高岡市というところの市制100周年に当てはめたのです。以来高岡市は10年間、延々とその野外劇を続けています。

内容も、ルピデゥフと同じ「町の歴史」。大伴家持がいた頃から現代まで、その町の歴史を町の人たち1,500人が演じます。野外劇は夏の2日間開催するのですが、衣装を縫ったり、いろいろな装置や小道具をつくったり、何らかの形で野外劇に関わった人たちすべてを含めると、1回当たりで3,000人から4,000人の市民が参加した計算になります。

 

 

 

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