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基本的に、劇の出演者は翌年は裏方にまわるという仕組みです。そして観客が1回当たり4,000人、2日間で8,000人入ります。つまり、キャスト、スタッフ、観客含めて、1万二、三千人が、1回の野外劇を囲んで集まる人の輪をつくります。高岡市の人口は17万人、その野外劇はもう10年続いていますから、ほぼ人口に近い数の人たちが野外劇に関わったことになります。

そうすることで、ここに文化のネットワークができたのです。出演する人たちはいろいろな文化団体に入っています。学校や団体、企業が行政とすべての横ぐしで関わっていくことになります。野外劇を続けることで、素晴らしい文化のネットワークができあがってしまったのです。これはお年寄から子どもたちまでを網羅するものです。しかも、1年間かけて準備し、つくりあげていくそのネットワークは、かなり堅固なものです。

高岡の例で言うと、完全に1つのそういう形態はできあがっています。10年目の今年、私は久し振りに行ってみたのですが、成功している中にも「違うな」と思うことがいくつか出てきました。成功したからそれを延々と続ければいいという問題ではないということなのです。常にパイプのメンテナンスを繰り返さなければならないのです。まちづくりが、「単なるイベント」になってしまってはダメなのです。町をつくりあげていくための手段ではなく、目的になってしまってはダメなのです。ではどうメンテナンスしていくかということを、今現在、私は提案し、企画書として作成しています。

それが先ほど皆様方の質問の答えになるかもしれません。つまり、町全体にまた違う角度でその野外劇ネットワークを広げていくプロセスが必要になってきているのです。例えば野外劇を上演している現場、町のお城跡を使っているのですが、野外劇の当日はそのお城の周辺は大変賑わっています。ところが駅におりて、その会場まで行く間というのは何もない空間なのです。だから、そこの道程にある商店街が野外劇を口実に何かお客さんを迎える装置をつくれないものか、また、高岡らしさを出すために、それぞれの家が、玄関を、花なり、いろいろな焼き物なりで、自分の家らしく飾ったらどうかなどと考えています。1つの町、それぞれの家がパフォーマンスして、お客さんが通る道を楽しいものにしていこうというものです。

先ほどのいろいろなお悩みをお聞きした中に、ボランティアの育成ということが挙げられていましたが、高岡の場合を取り上げると、以前から既存のボランティア組織がありましたが、野外劇をやることによって、それに出演した人たちはみんな、自分たちの町に対する誇りと愛着を持って、外部の人に町の歴史を聞かれても答えることができるようになりました。市民全員がボランティアガイドになる日も、そう遠くないのではないかと思います。

それから、エコツーリズムという話もありましたが、これは、自然そのものを対象に考えるだけでは、アピールカに限界があります。例えば、万葉集は自然を大変讃歌しています。そしてまた人間讃歌でもあります。その万葉集の中で、大伴家持は高岡でたくさんの歌をつくりました。素晴らしい自然と人間の共生が詠まれているのです。そんな万葉集をモチーフとした野外劇では、ここ数年、地球の環境の問題を大きくアピールしているのです。文学や芝居の世界からも地球環境へのメッセージを発信できるのです。

 

 

 

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