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イベントは、こういう市民を巻き込んでいく1つの仕掛け、仕組みなんだということをぜひ認識していただきたいと思います。

では、自らの町の再発見・再認識をさせるためにはどうしていったらいいのでしょうか。私はこれが観光促進の一番基本的なベースになるものだと思っています。ところが、地域への無関心、コミュニティーの喪失という現状があります。いわゆる対話がないのです。人間と人間との関係が途切れているのです。そういう状態が今、全国のいろいろな町で起こっています。そうしたコミュニティーの喪失、地域への無関心という動脈硬化をどう治療していくかが問題です。

自らの町の再発見・再認識をうながす活性化装置を仕掛けるにあたっての、市民サイドからの視点でみると、まず、成果が見て取れる、市民1人1人が自分の目で確かめられるような目標設定をしなければなりません。

次に、各種各層の住民の取り込みです。各種各層の人々を、反対する人も含めて1つの仕掛けの中に取り込んでいくことを考えなければなりません。あらゆる人たちにアタックしていかなければなりません。

もう1つは、地域の歴史とか文化を勉強するのではなく、これと遊ぼうという考え方を持っていただきたいと思います。自分の土地とは何だろう、自分が住んでいるところの歴史とは何だろうかということを知ってもらい、それと遊ぶことが重要な要素となります。

一方、地域への愛着とか、新コミュニティーの創造、元気の回復を目的とするイベントサイドからの視点でみると、町からのメッセージを発信させる発信媒体の確保と、タテ・ヨコの市民組織を確立させるネットワークづくり。もう1つは町のアイデンティティ、「らしさ」の醸成が大切な要素になります。

さらにもう一つ、活性化装置を創り上げるうえで重要なのは、その装置を支える組織です。例えば日本の町には祭というものが必ずありました。そして、その祭を支え運営していく市民組織「講」というものもありましたが、誰もが参加できる形にしなければ地域は盛り上がりません。そこで新しい祭、新しい講という組織をつくりあげていかなければなりません。

今日お話しするのは、フランスにあるルピデゥフという小さな村のことです。ロワール川沿いにある4,000人の村で、古ぼけた城とぶどう畑以外、ほかには何もありません。若い人たちはみんなパリに出ていき、35年前に過疎化の波にさらされました。どんどん人が減っていくのです。そして農業からも人が離れていき、村にはお年寄だけが残ってしまいました。

村に残されたお年寄りたちは、そんな村を何とか魅力的にしたい、せめて、夏になれば外に出ていった子どもたちが、みんな帰ってきてくれるような町にしたいと思いました。本当に単純な思いから始めたことが、35年後の現在、夏の3ヵ月の土日に開催されるそのイベントに、ヨーロッパ各地から数十万人の人がつめかける大観光イベントに成長しました。

そのイベントとは、「野外音楽劇」です。自分たちの村で起こったさまざまな出来事を、古代、中世、近世、そして現代という4ブロックに分けて、すべて村人だけで野外音楽劇をつくったのです。

 

 

 

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