観光をやるためには、まず地元の結束、元気がなければいけない。やる方法論、そしてそれをいろいろ手直ししていくことによって大きな観光の目玉にもしていけるというのがこの野外劇の持つ大きな魅力です。だからそれは方向次第だと思います。
○参加者(高田・トラベルジャーナル専門学校)
高岡の例で、基本的にこのイベントは観光促進が最終目標ではないということでした。ただし結果的に観光客が来てくれればそれにこしたことはないと。10年やってこられて県外のお客さんはどのくらいいるのですか。
○広野
観客の3割が県外からのお客様です。
○参加者(続)
企画もすばらしくて、パンフレット類にお金をものすごくかけていても、どうやって流通させるかが問題だと思います。メッセージを確立して発信し続けるという方法もありますが、その流通の仕方でベストというものはなかなかないと思います。旅行会社に販売を委託するとか、ポスターを貼るとか、新聞広告を出すとか、いずれにしてもコストが高いものになってしまうのです。メッセージの発信は合理的な施策を取られたのですか。
○広野
そういう宣伝はほぼやっていません。ロコミです。なぜかというと、「何かあの町はおもしろいことをやっているらしい」というふうに、ある種のベールに包むことが集客にとって大変大切だからです。チケットはほぼ2日間で売り切れてしまいます。出演者の家族だけで3,000枚は売れる。そういう形で逆に外に宣伝しないことでその価値を高めていくことになっています。
○参加者(続)
これは市民も巻き込んだイベントとしては日本でも最高のものだと思います。市民を大量に巻き込んで、賛否両論でその中から構築していくと言われましたが、各自治体の方々の懸念点として、いかに地元の方々の意見を吸い上げるか、この高岡に関してはどうやって住民を選別して、どういうふうに教育をしてつくりあげていったか、その過程をお聞かせください。
○広野
劇の内容は、万葉集の大伴家持が古代から中世、近代、そして現代という時代の間をタイムスリップしていく話です。その中で家持がいろいろな経験をします。中身は万葉集にこだわっていると言いながら、難しいことは1つも出てきません。万人が見ていて面白い、普段みることのできない体験が味わえるという、ある種の未体験空間を創出するわけです。
万葉集はあくまでも口実で、そこに参加した市民たちが、とにかく楽しめればいいのです。その結果、楽しみ遊ぶうちに、いつの間にか自らの地域の再発見・再認識をすれば、思うツボです。
私は現在はまったく野外劇に関わっていません。私はまちおこしとしてのプロデューサーで、演劇をつくる監督ではありません。ですから町を元気にさせるための方法論を住民と一緒に考えてきました。今、町の人に「あの野外劇は誰がつくったのか」と聞くと、「市民がつくった」とおっしゃいます。このことはものすごく正しいし、うれしいことです。今はプロデュースした私の姿は一切ありません。そういうことが大切だと思います。