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地域の活性化がなければ観光の促進はできません。地域活性化というのは、繰り返すように、自らの地域の再発見・再認識をすることから始まります。それには、1]アイデンティティの確立、2]ネットワークの確立、3]メッセージの確立、この3つの要素が重要となります。1]アイデンティティの確立とは、そこの土地らしさをどう出していくかということ。土地らしさを出すことによって愛着も生まれるし、誇りにもなっていくわけです。2]ネットワークの確立は、その町の中のネットワークはいうまでもありませんが、イベントを進める中で、今までになかった町の外の人たちと一緒になって事に当たることで、ネットワークを連ねられます。3]メッセージの確立というのは、常に何かをその町から発信し続けていこうということ。受信するだけではなく、自らも外に発信するものを常に持つことで、メッセージが投げかけられます。これらの三つのことをやっていけば、そこに参加した人たち、それに関わった人たちの自らの地域の再発見・再認識につながっていくでしょう。それが地域の活性化、観光促進につながるのです。

では、そういうことを目ざしてイベントを創っていく上で、その素材となるものは何だということになります。その土地独特の資質の中で最もふさわしいものを取り上げてテーマとします。そのテーマをいろんな切り口で分析していくと、今まで見えなかったものが見えてくるのです。

このことは、まさに私が高岡市でやったことです。地域資質からいくと、高岡は仏像などの鋳物の産地です。それを近代産業にしていく中で出てきたのがアルミの鋳物でした。あとは万葉集をつくった大伴家持が高岡に5年間赴任しており、家持が詠んだ歌のうちの6、7割が高岡で詠まれているということです。あるいは藤子不ニ雄という漫画家がここの出身であるということ。資質としてはその三つしかありませんでした。

その中で賛否両論が一番大きかったのは、万葉という切り口でした。なぜそんな古いものをという反対と、あんなすばらしいものを埋もれさせてなるものかという強い賛成がありました。市民の人たちとこの問題をとことん練り、最終的にテーマとして、賛否両論の際立った万葉を取り上げたのです。

まず歴史的、あるいは文学的価値の切り口で万葉集を切ってみると、古代から現代へと続く「共生」という永遠性がこの時代にもっとも大切なのではないかということが見えてきました。さらに、わがまちを再発見・再認識させるキーワードであるアイデンティティの視点、ネットワークの視点、メッセージの視点で万葉をながめたとき、ルピデウフという村で行われている野外劇という手法にいきついたのです。イベントというのはそういうふうに一つ一つ段階を踏んで考えていかないと、思いつきやおもしろさだけではなかなか生まれません。

○参加者(西条・志摩郡阿児町 志摩マリンランド)

私の住んでいる志摩半島は、観光を生業としている町です。そうすると、高岡のように観光地でないところの手法と、また観光がより生活に密着している志摩半島とでは異なると思いますが、その辺はどう考えたらいいでしょうか。

○広野

ルピデゥフという村はひと夏にヨーロッパ各地から数十万人を呼ぶだけの力を持っています。高岡は活性化のために野外劇を取り入れましたが、観光を目標にはしていませんでしたので、ルピデゥフとは違う展開をしました。ただ、まちが元気になるためにみんなで歴史と遊ぼうとした思いは、その底に息づいています。

 

 

 

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