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このようにイベントというのはお客さんを集めようと思ってつくれるものではありません。とにかく自分たちが楽しむのだと、居直って始め、その結果として、あの村では何かおもしろいことをやっているよ、と周辺の人たちが囁き合い、行って見ると結構面白いじゃないかと次々に伝わり、ヨーロッパ全体から観光客を集めるまでに至ったのです。ただ、それにはいくつかの仕掛けがあります。その一つは、演技をするのは全くの素人ですが、脚本や構成をする人、照明、音響などのテクニカルなスタッフ、全体を指揮する監督もフランスの超一流にお願いをしています。というわけで、一般の観光客がそれを見ても退屈することはありません。

この野外音楽劇は、ルピデゥフ村の1年間の予算を上回る興業収入を得ています。今ではその収入で財団を設立し、練習場やスタジオ、FM放送局、ホテルもつくりました。まさに行政顔負けの自治です。村民の95%がこの野外音楽劇に関わっています。参加者は自分たちの村の歴史と対話しながら、自分たちの持っている長所を存分に発揮して、この劇を1年かけて練習し完成させるのです。何回も反芻する。そこにお年寄から子供まで、いろいろなコミュニケーションが生まれます。そこに見えてくるものは、1年間かけて4,000人弱の人たちが一つの目標に向かって悩み、苦しみ、みんなで力を合わせてクリアした成果の賜物にほかありません。

今から10年前富山県高岡市が市制100周年を迎えました。当時町が大変衰退していっており、何とか元気になりたいという依頼で、3年間かけて町の人たちと討議しました。そのころルピデゥフの野外劇のことを知り、これだと思い、フランスに飛んで行ったのが始まりです。野外劇に触れ、ルピデゥフの人たちと話をした結果、高岡でも野外音楽劇をやることになりました。まちの歴史的な景観であるお城の本丸広場を舞台に、高岡市のあらゆる文化団体が結集して、市民1,000人あまりで野外音楽劇「越中万葉夢幻譚」を上演してから、今年で10年続いています。

高岡市の人口は17万人。出演者は例年約1,500人で、次の年は楽屋の世話にまわります。それを繰り返すことで、毎年3,000人、10年で3万人近い人が関わったことになります。観客は地元の人が中心ですが、外からも大勢やってくるようになりました。土日の2回公演で、7,000人入るので、10年間で17万人の町の半分以上の人が何らかの形でこの野外音楽劇に関わったことになります。衣装なども今は市内にある洋裁学校の若い人たちが協力して縫いあげてくれ、現在ではほぼ9割方、自前の衣装でやれるようになりました。また、高岡市にはお能の家元もおられ、最初は出ることを拒んでおられましたが、今はすすんで協力いただいています。野外音楽劇以外でも、お能の公演には、野外音楽劇仲間の若い子がつめかけ、若い子のロック公演に家元や民謡のお母さんたちが黄色い声援をおくったりと、コミュニケーションも大変うまくいっています。

つまり、文化はそれぐらい人を結びつける力があり、そして元気を出させる力があるということです。文化でできた組織というのは、自然に人間関係ができるので、障害があってもそれを乗り越えていくだけのパワーがあるのです。ですから、町を元気にするためにみんなで楽しもう、勉強しよう、自分たちの町のことをもっと知ろう、そしてそれなりにいい町ではないかと認識しよう、と始めたことが、町のパワーにつながっていくのではないかと思います。

観光を考える時、たくさんの人にお出でいただくためには、ホスピタリティーを発揮しなければなりません。そのためにはやはりまちが元気でなければいけないというのが原則だと思います。人間関係の大きなパワーを保持する仕掛け、仕組みがあれば、世の中のどんな変化に引きずられることなく、いつも人を呼ぶだけの魅力があるはずです。

 

 

 

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