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分科会A<あなたの地域でイベントを創出してみませんか?>

 

担当パネリスト 広野敏生

 

○広野

地域の人たちが集まって、いろりを囲む。その中からいいアイデアが生まれてくるものです。今、皆さんでいろり風に机を並べ替える作業をしていただいたことが、私はまちづくりの基本だと思います。皆さんに作業していただいた即席いろり端で、まちおこし、村おこしをするためには何をしていったらいいのか、一緒になって語り合いたいと思います。

私はいろいろなまちおこし、村おこしに参画してきましたが、そのほぼ8割方は失敗しています。成功した事例は数えるばかりです。それぐらいまちおこしを一つの形にしていくことは難しいことなのです。ただ、一つでも成功をすると、何が失敗したのかがはっきりと見えてきます。これは理屈ではなく体で感じることなのです。

まず、イベントを遂行するために皆さんが大変一生懸命なことは、よくわかります。しかし、まちおこしイベントは単にイベントをすることだけが目的ではなく、そのイベントをやりながら最終目標にどう近づけていくか、その制作過程こそが真骨頂なのです。

何の問題もなくスムーズにスピーディに遂行できたイベントの先には、まちおこしも、その先にある観光促進も見えてきません。まちおこし、観光促進を目指すイベントである以上、その過程で様々な問題が発生し、いろんな人たちとの折衝が始まります。その中で双方が自らの足元を見直すことから、地域の再発見・再認識が始まるのです。つまり、イベントというのは、当日のイベントだけが目的ではなく、それを通し、賛否両論を調整する中から1つのざわめきをつくり上げていくことなのです。このざわめきが大きいほど、成功イベントであり、町の活性化につながるのです。まちおこしには、すぐに効果が出るような特効薬は絶対にないのです。

我々は反対の少ない最大公約数のものづくりをしていくことが何よりも大切だと誤解していますが、町を活性化させていくためには賛否両論をつくり闘わせなければ、ざわめきは起こりません。ただし、行政は一方に偏る訳にはいきませんから、いろいろな賛否の軸をたくさんつくることで、町全体としては、それを平均化させることも大切です。

さて、一つご紹介したい事例は、フランスのロアール川沿いにある、ルピデゥフという過疎化の進んだ4,000人の村の話です。村の人たちは若者に帰ってきてほしいと思っていました。しかし村には若者に魅力的な産業もなく、村の人たちはある種のあきらめムードの中にいましたが、こうなったら残された年寄りだけでとことん面白いことをしよう、そして子供たちに村のよさを知ってもらいたいと、住民総出の「野外音楽劇」を始めました。今から35年前のことです。

この野外音楽劇というのは、ルピデゥフ村の人口4,000人のうち1,500人が出演して、その村の古代から現代までの歴史を村人たちだけで演じる歴史スペクタクルです。まさに村の一大文化祭として、村のあらゆる文化団体の力を借りて自らの住む地域文化の集大成としました。1,500人の出演者がその時代時代の衣装をつけ、ストーリーに沿って演じる中に、バレエや、馬が走り回る戦場の場面などを組みこんでいます。

35年目を迎えた今日、村の人口は当時のままの4,000人ですが、今では6〜8月の、夏休みの間の土曜・日曜には必ず上演され、ひと夏にヨーロッパ各地から数十万人もの人がこの野外音楽劇を見にルピデゥフにやって来ます。

 

 

 

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