水族館に限らず、一般に観光需要は12月から2月までは閑散期とされる。この期間は営業活動・経営戦略によって引っ張って来ることが可能な団体客が少ない時期でもある*25。さらに須磨海浜水族園の広告宣伝活動も、春・夏・秋が中心であり、冬季にはほとんど行っていない*26。したがってこの期間の入場者数を増加させたということは、須磨海浜水族園が、営業活動等が反映されやすい団体客ではなく、また積極的な宣伝広告活動によらずに、一般客が冬季にも訪れる施設になっていることを示唆している。須磨海浜水族園は、水族館が持っているとされる「施設特性要因」、つまり水族館は夏のイメージがあり、逆に冬は敬遠されがちな施設であるという一般的な認識を変化させた可能性があり、冬にも観光対象として選択される施設になっているのかもしれない。
*25 1997年度須磨海浜水族園における団体入場者の月別占有率は、以下の通りである(須磨海浜水族園提供の資料より作成した)。5月、6月、10月、11月に高く、8月、12月、1月、2月に低いことが示されている。
比率(%) 4月/14.5 5月/29.8 6月/21.4 7月/9.6 8月/2.4 9月/16.7 10月/45.9 11月/28.9 12月/7.2 1月/2.6 2月/9.3 3月/20.3
*26 須磨海浜水族園管理事業部によると、平成8年度の広告宣伝予算は約4400万円であり、おおよその目安として、春、夏、秋に1対2対1の割合で配分している。冬には主だった宣伝活動は行っていない。
以上の結果から、須磨水族館から須磨海浜水族園へのリニューアル以降、需要の季節性に変化が生じているのであり、特に水族館経営者が「何をしても観客を呼ぶことはできない」と考えている閑散期(12月、1月、2月)の入場者数の変化が顕著であった。一般に観光需要の季節性は、これまで見てきた4つの外性的要因によって所与とされ、経営戦略的には変更は難しいと考えられている。冬季入場者数は、年間入場者数に占める割合は小さいけれども、「水族館は冬季に出かける施設ではない」との一般的な考えが、必ずしも当てはまらない施設に須磨海浜水族園がなっている可能性があることが重要である。須磨海浜水族園が、冬季にでかける観光対象として選択される施設になっているということは、須磨水族館から須磨海浜水族園への移行によって、集客面での構造的な変化が生じたことを示唆していると考えられる。