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5. むすびにかえて

 

本稿では、観光関連施設である水族館における需要の季節性に注目し、その発生要因、集客戦略の可能性について分析を行なった。さらに需要の季節性の変化を分析することにより、同施設の集客構造の変化を追求し、季節性が外性的要因だけではなく、内性的要因によっても変化すること、つまり経営戦略の可能性についても検証を試みた。そのために、まず初めに観光需要一般で行われている需要の季節性に関する議論を概観し、季節性は年間を通しての収益の確保、安定的な雇用、資源の有効活用など、経営効率上の問題点が指摘されていることを明らかにした。しかし同時に、季節性は「制度的要因」「自然的要因」「地理的要因」「施設特性要因」によって固定的にほぼ決定され、戦略的に変化させることが非常に困難な問題であるとの認識も見られたのである。

次いで、全国の水族館を季節性によって4分類し、各水族館の経営者に対し、水族館における需要の季節性に影響をもたらす要因について質問票調査を行なった。特にこの調査で興味があった点は、5月に需要が最大になる水族館と、8月に需要が最大になる水族館との間には、どのような違いがあるのかといったことであった。もし仮に、戦略的な要因が関与しているのであれば、季節性を変化させることが可能となり、上記の季節性の問題点を改善することができると考えられたからである。結果的には、一般の観光需要と同様に、水族館においても季節性の要因は主として上記4要因によってもたらされると経営者は考えており、変更は困難であり、尚且つ変更の必要性も感じられていないことが窺われた。

また「5月型水族館」と「8月型水族館」「8月特化型水族館」の違いは、主として水族館の立地による「地理的要因」とそれに関連する、地域への観光客の入り込み状況によってもたらされている可能性が示唆された。

以上の議論に基づくならば、需要の季節性は施設のリニューアルだけでは必ずしも変化しないことになる。しかし、須磨水族館と須磨海浜水族園の集客構造を分析してみると、季節性が変化していることが明らかとなった。特に一般の観光需要の分析で指摘され、尚且つ全国の水族館経営者が「観客がこないのは当然」あるいは「集客は困難」と認識している12月、1月、2月の入場者数の増加が顕著であった。それでいながらこのような変化が生じたということは)須磨水族館と須磨海浜水族園では、集客構造が変化したからであると結論付けることは、必ずしも不適切ではないだろう。

拙稿(1997)は、須磨海浜水族園が「水族館が子供のための施設であると認識されていた時代に、敢えて大人をターゲットとして施設作りを行った結果、実際に大人の比率が高くなっている」ことを明らかにし、観客属性が変化し、幅広い層に支持されたことが入場者数を大幅に増加させた要因の一つであると指摘した*27。本稿の分析から、集客ターゲットを明確にし、施設の基本コンセプトを展示内容に反映させること等、つまり経営戦略によって、集客構造が変化し、結果として需要の季節性に変化が生じたと考えられる。従来は集客が困難であり、人が来ないのは当たり前と考えられていた冬季の水族館でも、観客が観光対象として選択する施設に成りうることを、須磨海浜水族園の事例は示唆していると言えるであろう。

 

*27 冬季に観察していると、家族以外にも若年、中年、高齢者カップル、女性グループが多く来園している。

 

しかし本稿では、日動水協所属水族館のうち、1993年度に年間を通して営業していた全水族館を調査対象としたが、質問方法や回答率が50%にとどまったこと、「四季型水族館」に分類した2水族館からは回答を得られなかったこと等*28、若干の問題点が指摘されるだろう。したがって、本研究で得られた結果が直ちに一般化できるわけではない。

 

*28 伊豆アンディーランド水族館(静岡県)、国営沖縄記念公園水族館(沖縄県)

 

今後須磨海浜水族園以外の都市内集客施設についても、集客面での変化を分析することによって、経営戦略や通年型施設へ脱却するための施策に関する示唆が得られ、本稿での結果をより客観的なものとすることが可能となると考えられる。

 

 

 

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