逆に、「冬季には何をしても集客にはつながらないので事業計画は無い」、もしくは「集客が見込める春から秋にかけて力を入れる」と答えた水族館が6館あった。積極的な集客策はとらずに「入場者への影響が少ない閑散期を利用して、館内の補修・展示替えを行う」と答えた水族館が2館あった。
上記以外では、「パブリシテイーの積極的な活用」「市民への優待券・割引券の配布」などが実施されているが、どれも決定的な誘因策とはなっていないことが指摘されている。上記以外の興味ある対策案として姫路市立水族館は、
「水のイメージが寒い冬とダプリ、集客は困難である。むしろ職員の研修や経費節減のために冬季の平日を休館にし、土日・祝日・冬休みだけに開館することも一つの案ではないか」
と指摘しており、経費削減・職員のスキルアップを目的とするならば、現実的な対応策のひとつであるかもしれない。
上記の結果から、水族館経営者は、閑散期は必然性によって生じるのであり、この時期に集客を図ることは非常に困難であると認識していることが窺われる*22。
既に見てきたように、Allcock、Manning&Powers、Jeffrey&Hubbard、小沢は、例えばピーク時とオフピーク時とで入場料金を変更する「価格戦略」がツーリズムにおける季節変動の緩和に有効ではないかと指摘している。しかし水族館の運営側では、閑散期における需要の開拓は、価格戦略も含めて政策的には非常に困難であると考えており、イベント等の施策は、あくまでも補足的な役割と捉えていることが窺われる。拙稿(1998)は、水族館その他のいわゆる観光施設において、実質的な値下げである幼児無料化が必ずしも需要の増加につながらない場合があること、逆に設備の更新を伴った料金の値上げが、必ずしも需要の減少につながらない場合があることを明らかにしている。観光施設では、価格よりもむしろ施設内容・魅力度が入場者数に直接影響すると考えられるので、需要の季節性を料金政策だけで緩和させることは困難かもしれない。
本節の分析によって、一般の観光需要と同様に、水族館の需要の季節性においても、経営戦略・営業政策的には変更不可能な要因が大きく影響していると運営側では認識していることが示唆された。一般の観光需要及び水族館の需要における季節性は、「制度的要因」「自然的要因」「地理的要因」さらに水族館が人々に与えるイメージ、つまり「施設特性要因」によってほぼ決定されると考えられているのである。
*22 回答のあった25水族館に関しては、電話で内容の確認を行なった。その際に共通していたのは、冬季の閑散期の需要増加のための設備投資は、費用対効果の面デメリットがないとの考えであった。