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質問内容は以下の通りであり、各質問に対して自由記述方式により回答を得た*17。質問項目(1)は、特定の月に入場者が集中する要因に関する質問である。質問項目(2)は、水族館において閑散期が生ずる要因及びその対策に関する質問である*18。以下では、これらの質問に対する回答をもとにして、水族館における季節性を分析していこう。

 

(1) 8月(もしくは5月)に入場者が集中する要因としてどのようなことが考えられるか。

(2) 冬季(特に12月から2月にかけて)に入場者が少ないことに対して、その理由及び対策はあるか。また閑散期を利用した事業計画はあるか。

 

*17 自由記述のため、複数の要因を挙げる場合があった。

 

*18 これら以外に、「8月(もしくは5月)に入場者が集中することによるメリット、デメリットとしてどのようなことが考えられるか」との質問項目を設定し、特定の月に入場者が集中することが水族館経営上メリットあるいはデメリットをもたらすのかを尋ねたのであるが、趣旨が十分には理解されなかった。また「年間を通じて水族館入場者に季節性が存在しているが、そのことに影響を与えている要因としてどのようなことが考えられるか。また季節性を緩和する方策はあるか」との質問で、水族館における季節性全般についての質問を意図したものであったが、説明不足のため、質問項目(1)との区別がつかず、回答では混乱をきたした。したがって本稿では、本文中の2つの質問項目について分析を行う。

 

3.2.2 結果と考察

質問項目(1)の「8月に入場者が集中する要因」として、「子供の休みと大人の休みが一致するため」「長期休暇が取れる時期」「お盆の帰省客が多い」等、休暇に関連したいわゆる「制度的要因」を指摘した水族館が13館であった。また、「暖かい」「行楽に良い時期」等、気候などの「自然的要因」を指摘した水族館が5館あった。さらに「海水浴場に近いから、ついでに水族館にも立ち寄る客が多い」「水族館に立地する地域全体が夏型の観光地なので、水族館入場者も夏に多い」「人口集中地から離れているので観光客が中心となるから」等、水族館が立地する地域の特徴としての「地理的要因」を挙げた水族館が11館であった。最後に、「水族館は水に関連したイメージがあり、夏との連想で来館する」として、「水族館のイメージ」、いわゆる「施設特性要因」との関連を指摘した水族館が5館あった。

また「5月に入場者が集中する要因」として、「ゴールデンウィーク」など、「制度的要因」をあげたのが2館。「気候がよい」「行楽シーズン・観光シーズン」「雪解けで移動が容易になる時期」など、「自然的要因」をあげたのが4館であった。「5月には近くの海岸で潮干狩りができるので、その立ち寄り客が見込める」、あるいは「観光地に立地しているのでついでの客が水族館も訪れる」といった「地理的要因」を指摘する水族館が2館あった。水族館経営者の回答からは、「5月型水族館」と「8月型水族館」「8月特化型水族館」の季節性の違いは、あまり認識されていないことが窺われる。というのも、季節性の理由として指摘された「ゴールデンウィーク」「夏休み」「行楽シーズン」は、全国どの水族館にも共通して当てはまる条件だからである。「5月型水族館」の場合、水族館の需要にとって都合の良い条件がそろっている8月ではなく、5月に需要が最も多くなるのは何故か、が非常に興味のある点であるが、本稿の調査では十分な結果が得られなかった*19。可能性として考えられるのが、「宮島水族館」が指摘した観光客との関係であろう。世界遺産に指定され、我が国において特A級の観光地*20である宮島に位置する「宮島水族館」は、当地を訪れる一般・団体観光客、修学旅行の立ち寄り需要が多い水族館である。そのため5月に最も需要が多くなっているとされる。水族館が位置する場所、つまり「地理的要因」が季節変動に大きな影響を与えていると考えられる。「5月型水族館」「8月型水族館」「8月特化型水族館」の何れの経営者も、季節変動は戦略的要因によってではなく、「制度的要因」「自然的要因」「地理的要因」「施設特性要因」によって所与であると認識していることが窺えるのである。

 

*19 図表3-1にあるように「5月型水族館」8水族館の内、サンピアザ水族館(札幌)、よみうりランド海水水族館(神奈川県)以外は全て近くに海があり、5月よりは8月に需要が最も多くなっても良いと考えられるが、実際にはそのようになっていない。

 

*20 鈴木(1993)、p.82。

 

 

 

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