2. 観光需要の季節性に関する先行研究
Allcock(1989)は、ツーリズムにおける季節性の歴史的変化の研究において、「ツーリズムの季節性は、最も広く同時に認められる特徴であり、かつ最も研究が少ない」と述べ、観光需要の季節性が研究者及び実務家に広く知れ渡っているにもかかわらず、研究の蓄積があまりなされてこなかったことを指摘している。本節では、需要の季節性に関する先行研究を概観し、問題点、発生要因、対策・戦略について検討し、さらに一般の観光需要以外でも季節性が発生していることについても検討を加えていくこととする。
2.1 季節性の問題点
Manning & Powers (1984)は、需要の季節性が存在することによって生じる経営上の問題点として、資源の非効率な利用、機会損失、社会的・環境的利用可能性の制限、管理スケジュールの困難性、特に人員の手配などを指摘している。また小沢(1992)も「我が国の場合、国内・国際観光の何れについても、需要は、年末・年始、春、夏の3つの時期ないし季節に集中する傾向が強い」と指摘し、「季節的変動が激しいということは、経済的非効率を著しく高めることになり、かつまた観光産業の経営や地域の労働力を圧迫する要因にもなる」と述べ、観光需要に季節性が生じていることによる問題点に言及している*3。
*3 小沢(1992)、pp.107-115。
小谷(1994)は「発生需要の季節性は、観光地の混雑と交通渋滞をもたらすし、観光地の季節性は観光地経営にとって最大の不安定要素となっている」と指摘している。さらに「観光産業の安定的成長をはかるには、このような季節性から脱却し、通年型経営を目指すことが求められている」*4と述べ、季節性を克服する必要性を指摘している。
*4 小谷(1994)、p.126。
観光需要の季節性についての問題点が指摘される中で、Hartmann(1986)は「閑散期は、社会や環境が完全に回復するための唯一の機会である。閑散期は、受入側の社会が自らの主体性を守るために必要である」と主張し、季節性によって生じる閑散期を地域社会にとって必要な期間として積極的に評価する研究者もいる。
2.2 季節性の発生要因
Allcockは、季節性が発生する要因として、自然的要因(台風の時期、雨の多い時期には人々はでかけない等、気候に影響される)と制度的要因(特に宗教的な巡礼、国際会議・学会が毎年同じ時期に開催される)を挙げている。
Manning & Powersも同様に、気候、学校などの伝統的なスケジュール、社会的な労働と余暇のパターンが季節性発生の要因であると指摘している。