1. はじめに
多くの観光地あるいは観光施設には、年間を通して観光客の季節変動、つまり観光客が集中する混雑期と、観光客が少ない閑散期とが存在している。このような観光客の季節変動は、観光需要における「seasonality(季節性)」と呼ばれ、観光対象、観光地、観光施設によってある程度決まっているものと考えられている*1。というのも観光行動自体が、季節そのものを楽しむといった行動を含んでいるからである。例えば、春の桜、夏の海・山、秋の紅葉、冬のスキー等、その時期にしか味わえない楽しみを求める人々の行動が、すなわち観光行動の大きな要素の一つであると考えられるからである。したがって、もし仮にある観光地や観光施設の需要の季節性が変化するならば、それは集客構造が変化したことの傍証にもなると考えられる。
*1 Allcock(1989)は、ツーリズムにおける季節性について、「1年うち比較的短い期間に観光客が集中する傾向」であると定義している。
本稿の目的は、博物館施設を集客装置と捉え、博物館施設における需要の季節性*2に注目し、そのことによって集客構造の変化及び経営戦略の可能性を追求することである。
*2 本稿では水族館の季節性を「水族館の入場者数が年間を通して変動する傾向にあること」と定義する。
拙稿(1997)では、須磨海浜水族園が1987年のリニューアル・オープン以降、入場者数を急増させた要因について、集客ターゲットの明確化、基本コンセプトの変更、施設内容の変更等の戦略を明らかにした。次いで拙稿(1998)では、上記論文に定量的議論を組み合わせることを目的として、須磨水族館・須磨海浜水族園の入場者数を被説明変数として、様々な説明変数を用いて需要分析を行った。本稿ではこれらの分析を受け、須磨水族館から須磨海浜水族園への移行により集客構造そのものが変化したこと、即ち観光関連施設における経営戦略の可能性を需要の季節性を分析することによって明らかにしていく。
須磨水族館・須磨海浜水族園の需要の季節性の分析を行う前に、先ず観光需要一般の季節性に関する先行研究を検討し、どのような要因によって季節性が生じるのかについて概観することにしよう。次いで、水族館における需要の季節性について全国の施設を対象として分析を行った後、須磨水族館・須磨海浜水族園についての分析を行っていく。