二. 「満州」観光におけるホストの対応
1. まなざしの抵抗
a パンフレットの強調点のずれ
「満州」観光について、ホスト側とゲスト側のまなざしのずれは双方の旅行社が発行したパンフレットの強調点の違いによく現れている。
日本の旅行会社が主催した「満州」のパッケージ・ツアーの特徴は次の三つの点にまとめられよう。
1]. キャッチコピーはほとんど「郷愁を誘う旅」、「望郷の旧満州」のような「ノスタルジア」のムードをかき立てる言葉であり、「満州」体験者のおなじみの「夕陽」、「アカシア」、「高梁畑」などのイメージも意図的に強調されている。
2]. 自由行動の時間が多く設けられる。「ご自分で懐かしい土地をめぐりたいとお考えのお客さんのため」だという。オプションもたくさん用意されている。(この点では、中国の他の地方のパッケージ・ツアーと異なる。)
3]. スケジュールに「満鉄」の跡や、日本ゆかりの風景などが多く組みいれられるかわりに、中国側が建てた日本の侵略戦争の歴史に関する博物館や記念館などは比較的に少ない(全くないとはいえない。)
一方、中国観光局東京駐在事務所発行(93年12月、5万部、日本語)の「CHINA NEW TRAVEL MAP 4−大連」というパンフレットの紹介文は次の通りである。
「アカシアの花の下で彼女は再見(ではまた)……と優しく微笑んだ。躍進する東北中国のニュー・フェイス/中国東北地方の空と海の玄関、大連市は“アカシアの街”として日本人にもよく知られています。旧時代の街並や建物も少なくありませんが、現代中国の新経済社会に向けて大連は今、身も心も華麗な変貌を遂げようとしています。遼東半島南端、人口524万のリゾート地大連は、春のアカシア祭、夏の国際ファッション・ショー、そして冬の春節(旧正月)等盛り沢山のイベントを用意して、皆様のおいでをお待ちしています。」
つまり、「ニューフェース」より昔の情緒と表情が残っている町並みを強調する日本側のパンフレットと異なり、中国側は、むしろ「旧時代の町並みや建物」よりはニューフェースの方を見せたいのである。