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二 席

 

「被害者」としてのホスト

-戦後の「満州」観光における中国-

 

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高 媛

 

はじめに: 戦争・遺跡・観光

 

ツーリズムが研究テーマとしてアカデミックな領域で市民権を得たのは、わずかこの二十年のことである。1977年、バレーン・スミス等が編集した『観光・リゾート開発の人類学』を皮切りに、文化人類学のなかで、ツーリズムの研究は主にホスト(観光客を受け入れる側)とゲスト(観光客側)社会間の文化の伝播、変容及び再創造の側面に研究の焦点を当ててきている。その後、社会学者ジョン・アーリが『観光のまなざし』(1990)において、観光をテクストに、ツーリストの視線とその対象である社会諸相を歴史、経済、文化の多元的なレベルで読み解く先駆的な分析を行った。ツーリズムはいま、歴史学、人類学、社会学及び経済学にまたがるフロンティア的な研究領域としてますます注目されつつある。

 

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出所:「出かけようアジアへの旅」、機関紙出版、1995

 

ツーリズムを政治学の観点から検討する限られた先行研究の中で、植民地統治期や戦時中における支配側の営みに焦点を当てるものが多い*1。私自身も修論の中で、日露戦争から終戦前までに行われていた「満州」(中国東北地方)観光への考察を通して、日本人ツーリストはいかに身体的な捺印を伴って、ナショナル・アイデンティティを獲得、確認していたのかをも分析してきた*2

 

*1 例えば、1920年代のバリでの植民地政府の観光開発に焦点を当て、それを植民地政策の一環として論じた「観光=植民地主義のたくらみ」(永渕康之、『観光の人類学』所収、1996)がある。また、アンダーソンは19世紀初めから盛んになった植民地考古学が次第に観光と結びつき、このような遺跡の博物館化が世俗植民地国家の勲章として位置づけられた政治的な文脈を示唆する(ベネディクト・アンダーソン、『想像の共同体(増補)』、白石さや・白石隆訳、Libro、1997)。

 

*2 高媛、東京大学大学院人文社会研究科社会学専攻修士論文「ツーリズムとナショナリズム」(1997年12月提出)を参照

 

 

 

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