ホテルやモーテルといった宿泊施設への投資状況であるが、92年から93年度にかけての投資額は2億7,000豪ドル、93年から94年度にかけては2億9,000豪ドルであった。94年から95年度においては、オーストラリア観光局による新たな観光戦略の発表やナショナル・バックパッカー・プログラムによって、その投資額は一挙に増加し4億8,000豪ドル、続く95年から96年度にかけては6億4,000豪ドルであった。今後もなお高い投資額を予想しており、96年から97年度においては8億9,000豪ドル、97年から98年度は12億4,000豪ドルになると予測されている*31。
*31 Government of Australia Office of National Tourism-Facts and Figures- URL op cit,
以上の結果、バックパッカーは非常に少数であるにもかかわらず全体の支出の13%を占め、その消費パターンも非常に地元と密接で、かつ広範な範囲に渡ることからも経済的インパクトがプラスに大きいと結論づけることができる。また統計上に表されているバックパッカー数は少ないが、BTRの定義に基づいての統計なので、実数値はそれを遙かに越えるものと予測され、ホリデーで訪れている約12%も加えるならば、全体の約9%がバックパッカーと見なしても良いと考えられ、その際の経済的インパクトは更に大きくなる。
以上経済的インパクトを考察した結果、次のように導き出せる。バックパッカーから想像されるイメージは「貧乏旅行者」であるためバックパッカーの消費額など経済的インパクトは一般のツーリストよりも遙かに小さいと思われていた。たしかにバックパッカーは低廉な宿泊施設を好むというその特徴から、そのように想像されるのは仕方のないことであろう。しかし低廉な宿泊施設を利用していても、長期に渡って滞在する彼らの宿泊費用・生活費用・観光費用は非常に高額かつ地元地域に分散的に波及することより、バックパッカーの経済的インパクトは一般のツーリストよりも大きいという結論に達する。
第IV章 現代観光におけるバックパッカーの位置づけ 〜結びに代えて〜
本論文ではバックパッカーというツーリストの出現に至るまでの歴史的プロセスやオーストラリアにおけるバックパッカーの現状、バツクパッカーが与えている経済的インパクトを考察してきた。筆者はバックパッカーを紐解くことで今後の観光の方向性を提示することができると確信したからである。これまで本論文の中でもいくつかのキーワードが出てきた。持続可能な観光(sustainable tourism)、もうひとつの観光(alternative tourism)、新しい観光(new tourism)などである。それは今までのマス・ツーリズムのように定式化・パターン化された大規模な観光形態ではなく、個人へとシフトし、柔軟で多様化し、環境問題などをも考慮した観光形態である。