このような観光産業の順調な成長を遂げるオーストラリアにおいて、1995年10月3日、新たな観光戦略が観光局大臣であるマイケル・リーによって発表された*20。そのターゲットは80年代に注目されたバックパッカーであった。
*20 Government of Australia, Strategy to Attract Backpacker Tourists, URL http://www.dfat.gov.au/ipb/pai/pai836.html ,1995.
このようなバックパッカーを戦略として援助し、かつバックパッカーを重要な市場としてそのシェア獲得に政府が動き出したのはまさに異例のことである。バックパッカー市場の成長速度は速く、1995年では227,200人のバックパッカーが訪れ、その数は2004年には倍に達すると予測している。バックパッカー市場の成長を促進する為に政府にはバックパッカーを支えている低廉な宿泊施設の小規模・個人経営者への資金援助、そして時にはバックパッカーを転々とするだらしがない放浪者という否定的なイメージをもっている地元政府や地元地域に対して、バックパッカーに対する誤解を取り除きより良い理解を広める為の資料や説明会の準備を行い支援すること等が求められる*21。
*21 Government of Australia, Building up backpacking, URL http://www.dist.gov.au/tourism/publ...kingtourism/sept95/backpacking.html ,1995.
オーストラリア政府が出した戦略は政府と観光産業が協力し、バックパッカーの市場調査、バックパッカーのための低廉な宿泊施設、交通機関の整備、安全性、ビザの発給、産業調整、雇用、地域への理解推進などの点で問題点を認識するというものであった。具体的内容としては、1994-95年に政府はナショナル・バックパッカー・プログラムという計画を掲げた。それは向こう4年に渡って400万豪ドルがそのプログラムにあてられ、その内65万豪ドルがオーストラリアのバックパッカー市場を発展させるためのプロジェクトのために自治体や地方観光協会、地元のコミュニティーに割りあてられている。その為300以上のバックパッカーの宿泊施設のポケットガイドを発行し、またオーストラリア・オートモービル・アソシエーション(AAA)を新たに組織し、バックパッカーの宿泊施設を清潔さ・機能性などの項目において5つにランク付けするなど、宿泊施設・サービスの向上を促進することでバックパッカーを全面的に支援した*22
*22 Commonwealth Department of Tourism, Building For Backpacker; Guidelines for Backpacker Accommodation, 1995, pp.2-4.
第2節 バックパッカーの定義
バックパッカーという語が用いられたのはThe Backpacker Phenomenon Iの著者、ジェームズ・クック大学のPearce教授に始まるとされる。彼はその著書の中でバックパッカーを5つの点において定義付けしている。
第1点は「低廉な宿泊施設を好む」である。低廉な宿泊施設とはユース・ホステル、バックパッカー・ホテル*23、B&B(bed and breakfast)*24さらには友達、親類の家などである。低廉な宿泊施設を利用することにより宿泊費を節約し、より長期に渡って旅をすることが可能になるからである。
*23 バックパッカー・ホテルとは低廉で必要最小限の施設を有するホテル。とりわけバックパッカーのようなツーリストが好んで宿泊することからバックパッカー・ホテルといわれる。
*24 B&B(bed and breakfastの略)とは民間の家の部屋が旅行者に安い料金で提供され、寝るためのベッドと翌日の朝食がつくことから、その様な宿泊形態をbed and breakfast呼んでいる。英語圏の国々ではB&Bと呼ばれる宿泊施設が多い。ヨーロッパ大陸では、ペンションがそれと同じ形式とみられる。バックパッカーにとってはB&Bに宿泊することで現地の人々と直接接触できることからよく利用されている。