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Cohenはそのような現状を分析するのに観光客を分類した。興味、好奇心を奮い立たせるような「斬新さ」、多様化された中にも安寧を与える「なじみさ」との度合いのバランスをその指標とした*12。その中でも「drifter」として分類されたものがある。それは旅の行程において全くの未開地を行くのでもなく、また住み慣れた社会生活空間を行くのでもなく、観光地的色彩を強く帯びた施設などを避け、完全に自分なりの旅を作るものである。そのスケジュールは極めて柔軟で、旅先での新しい出会いや経験を求め、人々と交流し現地に溶け込もうとする。交通手段も自転車やヒッチハイクなどによって移動を行っている。また彼らは自分たちだけの環境的にふさわしい適所を作り上げていった。そこはまだ未開発の地で自然の豊富な場所であったり、あまり知られていない彼らの楽園であったりするのである。Cohenはその中でもとりわけdrifterをマス・ツーリズムに対置する者とした。

 

*12 Cohen, E., Toward a Sociology of International Tourism, Social Reseach, Vol.39, 1972, pp.164-182

 

またVogt*13もこのマス・ツーリズム期のツーリストの分類を別の角度から行った。彼は大衆化・大量化されることにより旅行者(traveler)が観光客(tourist)へ変わったと見た。観光客とはあらかじめ計画されたツアーなどに参加し旅行代理店に従って旅をするものであり、旅行者とは自ら旅を計画し行い、直接的な文化接触、斬新さを求め、同時に旅のリスクも負うものとしている。そのような旅行者を「wanderer」と呼んでいる。

 

*13 Vogt, J., Wandering: Youth And Travel Behavior, Annals of Tourism Research, Vol.4 1976, pp.74-105.

 

しかしながら1950年代という戦後の混沌の中でこのような若者の動きはしばしば中毒的、アナーキー的要素を帯びるようになった。旅の目的意識も薄く、反文化的で生活を放棄し、現実・責任からの逃避から旅に出て、血を売って生活したり、ドラッグと関わるようになっていったのである。60年代には特にアムステルダムにおいてドラッグに溺れ、物乞いをするヒッピーと呼ばれるものが現れた。それらはまさに社会における問題児として見なされたのである。Cohen*14はこのような冒険的要素を喪失したdrifterは、その集団化、巨大化によって徐々に異質なものになってゆき、彼らはもはや地元の人々との接触、文化のふれあいなどに興味を失い、反文化的なものに関心をもつ存在へと変わり、他の観光客の反感を買うものになると強く危惧していた。

 

*14 Cohen, E., Nomads from Affluence: Notes on the Phenomenon of Drifter Tourism, The International Journal of Comparative Sociology, Vol.14(1-2), 1973, pp.89-103.

 

 

 

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