しかしながら、経済・金融危機は東アジアの認識を大きく変えている。東アジアは急速な経済成長を遂げていたが、地域主義の必要性と重要性をさらに深く浸透させるためのインセンティブがまったくなかった。東アジアの地域主義は初期段階にあり、本質的に試験的なものであった。経済が急速に成長したため、多くの問題点が隠れてしまったのである。経済・金融危機が起こったことで、東アジアの地域主義が弱いものであり、地域主義を維持するためにより努力しなければならないことに気づかされたのである。東アジアはグローバライゼーションとその様々な影響などの新しい変化に対応する準備ができていない。東アジアとヨーロッパという二つの地域は、このグローバルな変化に地域がいかに効果的に対処できるのか共に学ぶことができる。
2.グローバライゼーションとその影響
グローバライゼーションは地球規模で経済的、政治的変化をもたらしている。グローバライゼーションは技術革新、イノベーション、情報技術と通信の急速な進歩により可能になったものであり、特に金融市場はこうした進歩を利用してきた。
グローバライゼーションの影響はそれだけにとどまらず、新しい考えとビジョンを受け入れさせる方向で地球規模の影響を及ぼしている。テクノロジーと金融界は主に"西洋"が組織し所有しているため、こうした新しい考えとビジョンは主に"西洋人"のものとなっている。日本は経済的な影響力を持っているが、地球規模で受け入れられる文化や価値体系を持たないため、日本の影響力は限られたものになっている。
グローバライゼーションがもたらす変化は、"第三世界"すなわち"発展途上国"の経済発展と物質的な幸福に浸透し、発展途上国がこうした変化を受け入れているだけでなく、政治的、社会的価値や文化の領域にまで浸透しているが、発展途上国はこれらの領域での影響を問題視している。こうした変化が特に問題視されるのは、変化が急速に、あらゆる分野で起きているからである。発展途上国はこうした根本的で急激な変化に対応できずに動揺しているようだ。これは金融危機が起きた理由の一つであり、東アジア諸国が協力して金融危機の解決方法を見出そうと努力しているのも、このためである。東アジアの金融危機は本質的に単に金融上あるいは経済上の問題ではなく、政治的、社会的、文化的な性質を持っている。金融危機に政治的、社会的、文化的な性質があるのを認識することは重要であり、問題に適切に対応する上で非常に重要である。
東アジアの金融危機の規模が拡大したのは、特に冷戦終結後のこの10年間にグローバライゼーションの過程で起きた大きな経済成長に対応するのに必要な組織が、東アジアの発展途上国になかったからである。東アジアの発展途上国のマクロ経済のファンダメンタルズには良好なものもあり、適切な経済戦略も持っており、東アジア地域は高度成長を経済発展のモデルとして奨励している。しかしながら組織、特に政治、社会分野の組織が不足している。また文化的価値さえも、中流階級を一方に、一般市民をもう一方にした対立が見られるほど侵食されている。