NATOおよびEUの拡大の日本に対する影響
日本の安全保障専門家の多くは、NATOの拡大がロシアを刺激し、国際緊張をもたらすことを懸念している。彼らは、NATO拡大が中露間の提携を生み出す可能性があり、これが日本にとって安全保障上の問題となると考えた。さらに、彼らは、NATO拡大およびNATO-ロシア間の協力が日本の利益を犠牲にすることを懸念した。
目下のところ、ロシアと中国は関係緊密化には至っておらず、他方、日露関係は著しく改善されている。
1997年10月のソラナNATO事務総長の訪日の際の講演で同事務総長は、この問題について、ロシアの安定化の重要性を説き、ロシアがいかなる対中関係を持とうと、安定したロシアは日本にとっての利益であると強調した。(7)すでに1997年5月にドイツのリューエ国防大臣は、東京での講演において、同様に、NATO-ロシア間の協力関係は、アジアにも好影響をもたらすとした。(8)
ロシアは、日本を含む、その隣接国との関係改善に動いている。ロシア問題の専門家である佐藤優氏は、ロシアの要人や専門家との面談を重ね、NATO拡大がロシアの対日政策に影響していることを示唆している。(9)
欧州委員会駐日代表部のケック前大使は離任の際の演説で、EUの東方拡大は複雑にNATO拡大と絡み合い、これがアジアの戦略バランスを変えるとの指摘をなし、政治問題をめぐり日欧間の緊密な接触を提唱した。(10)
結び
これまで、NATOの第一次拡大は、日露関係には肯定的な影響をもたらしてきた。NATOの次の拡大は異なる結果となるのであろうか。
欧州連合の経済通貨同盟と拡大は、世界政治における欧州の重要性を増大させるであろう。その結果、日=EU間の交流はより活発になるだろう。目下、双方とも、政治協力は十分ではないとみなしており、98年6月のブラッセルにおけるセミナーのブリタン副委員長の講演もこの旨、指摘している。(11)
欧州委員会は新たな対日政策を起草中であるが、政治協力の強化を提唱するものとみられる。欧州連合の共通外交安全保障政策が発展すれば、欧州連合と日本との間の協力は改善されるだろう。しかしながら、欧州連合の拡大は、果たして共通外交安全保障政策を充実させるものであろうか。アムステルダム条約は、共通外交安全保障政策を強化するだろうか。
さらに、米欧関係の問題もある。ザイデルマン教授は、NATOとEUはそもそも、欧州のガバナンスをめぐり、両立しないモデルであるとしている。(12)欧州委員会の官僚であるアヴリーとカメロン氏は、共著において、EU拡大の米欧関係に与える影響については、確定的な予測が困難と述べている。(13)しかしながら、両氏やそのほかの専門家は、拡大によって、同盟内の責任分担問題が再燃することを予見している。(14)さらに、両氏は経済・金融面では、EUの増大する重要性がEUと米国の相対的地位を変える可能性があることを指摘している。(15)