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NATOとEUの拡大は、双方の組織に正式の接触がなく、無調整のままに進められている。キルヒナースペーリング両教授の共同執筆ペーパーは、ユーロの導入が米欧通商関係を害する潜在的可能性があることを指摘し、経済面での競合は、軍事的目標とエンゲージメントをめぐる責任分担問題とますます連関するとしている。さらに、両教授は、かかる潜在的紛争は、EU、NATOの拡大とともに、さらに先鋭化する可能性を指摘している。(16)

欧州は「欧州安全保障防衛アイデンティティ-ESDI」を強化してゆくのだろうか。最近の動きとして、98年10月の欧州連合の非公式首脳会議におけるブレア首相の共通外交安全保障政策強化提案や、同年11月のEU諸国の国防大臣会議は、この証左であろうか。欧州における防衛産業の目下の再編は、ESDIを強化するのだろうか。かかる変化は米欧間の緊張を招くだろうか。すでにNATO加盟国間で原則合意がなされているように、NATO内でESDIを発展させることが解決策だろうか。

1年前、東京における講演でNATOのソラナ事務総長は米国のコミットメントについて、NATOの拡大は米欧関係を再活性化し、外向きの米国は、欧州の同盟国の安全のみならず、アジア太平洋にもコミットするとの期待を表明した。(17)単一通貨や欧州のさらなる統合に対し、米国は公式には常に、繁栄し安定した欧州を歓迎すると表明してきた。

欧州の拡大は多くの取り組むべき問題を伴っている。その中でも、「責任分担」、「米国のコミットメント」、「不安定なロシア」は日本と欧州双方の共通の関心事項である。変転する戦略環境の中で、日本と欧州は、第二次世界大戦終結以来の長い不在期間の後に、再び逢いまみえたのである。

 

(1) 本ペーパー以下の会議ペーパー基礎とし、事態の進展に合わせて加筆したものである。"The Construction of Europe and Japan,"paper presented at the Japan-Europe Workshop(WEU) on March 1998 at the WEU-ISS; "Japan in 2005: The ForeignPolicy Contexts," paper presented at theseminar "Japan 2005," on 15 June 1998; and "The Impact of NATO and EU Enlarge- ment on Japan," paper presented at the Third Pan-European International Relations Conference and Joint Meeting with the International Studies Association(ECPR/ISA) 16-19 September 1998.

(2)1998年10月2日、早稲田大学における福島実西欧一課長の講演「日本と欧州評議会」

(3)詳細は、植田隆子「欧州復興と日本」『国際政治』114号、1997年,201-202ページ参照。

(4)詳細は、以下の拙稿を参照。"Japan and the OSCE,"in M.Lucas,ed.,The CSCE in the 1990s, Baden-Baden,1993,pp.207-222; "Japan and the OSCE," Institute for Peace Research and Security Policy,ed., OSCE Yearbook 1997,Baden-Baden,1998,pp.387-395.

 

 

 

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