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しかし、革命的とは言っても、ASEANの場合は革命家的行動を避け、地域の、そして世界の秩序を新たに建設するよりは、既存のそれに修理を加えることに重点を置くのだ。現実主義者とは一味違って、ASEANのやり方は、地域機関の有用性を信頼し、それを通じて権力へのあくなき闘争を緩和し、飼い慣らすことができるとの考えに立っている。地域機関は戦争を避けて通る手段なのであり、これによって生誕期のアジア太平洋共同体の共通意志を動員し、地域の多国間関係の中で侵略行為の非正当性を確認することで侵略者を抑止するのだ。

 

安全保障の側では、ASEANのやり方の最も注目すべき特徴は、総合的に安全保障を捉えるという考えであり、関連する幾つかの領域相互間(軍事、政治、経済、社会、文化、それに環境)の関連性を重視する立場だ。ここで鍵となる要素は、一国が持つ活力なのであり、国家内外の安定性を安全保障への配慮の中核に据えるのだ。

 

アジア太平洋地域はまた、冷戦時代特有の軍事同盟を補完したり、それに代わって同じ役割を果たす制度としての協調的安全保障の枠組の形成を積極的に押し進めてきた。NATOの拡大はウイルソン的理想主義と現実政治と、二重の意味で同時的に正当化された。しかし、実際にはこのいずれをも援用することができなかった可能性もある36。と言うのは、協調的安全保障という包括的コンセプトに対しては建前としては大いに賛成はしているのだが、NATOの拡大自身が外部からの脅威(すなわちロシア)に対する防衛としての安全保障というこれとは異質の考えの存在を証明しているからだ。ヨーロッパ全域での協調的安全保障に焦点を当てる代りに、それは分割されたヨーロッパの一部分の安全保障を、他の部分に対抗する形で取り上げたのだ。ロシアはここではヨーロッパから除外されていて、ヨーロッパに対する脅威であり続けているとの烙印を押されたのだ。敵国と国境を隔てて対峙するライバルであるロシアには、中欧、東欧の地域では意味のある地政学的役割はまったく与えられないのだ。協調的安全保障という考えは、パートナーシップと相互信頼の確認の原則に基づいている。しかし、NATOの拡大は、ヨーロッパに現存する軍事力の突出を、ヨーロッパの伝統的大国であるロシアの犠牲において一層強化する結果を生んだ。

 

協調的安全保障とは、全ての関係者を含み、グループ内部の問題に関心を注ぎ、外部からのいかなる侵略行為に対しても全てのメンバーへ保護の手を差し伸べる。それは、平和とは分割不能なものであり、侵略行為とは、それが何処で起きても全ての国にとっての脅威であるという前提に立っていて、「個は全体に通じ、全体は個に通じる」というかの古い諺に通じるものがあるのだ。将来現れるかも知れない侵略者から自らを防衛するために、国家の連合体が事前に計画を立てるわけには行かない。

 

 

 

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