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ロシア連邦(CIS)の中でロシアは支配的地位にあるので、このように多数のロシア系住民がこれらの共和国に居住しているという事実は、ロシアと他の共和国との間の将来の関係に不安定要素を加えるものだ。ソ連時代以前の中央アジアの有るべき姿の魅力的な地図が再現されるかも知れないというヒントも聞かれるが、それには、アフガニスタン、イランと他の中央アジア諸国が地政学的な整合性を持って描かれているのだ。少なく見積もっても、この地域に対するロシアの影響の減衰は、他の外部諸国家(トルコ、イラン、パキスタン、インド、それに中国)がこの地域と文化的、経済的、政治的な関係を構築する機会を提供するだろう。

 

中国カードについて

The China Card

 

中国に対する西側の見方は、軍事対立と東洋の魅力への憧憬との間を激しく揺れ動く傾向がある。中国に対する過大評価は、中国が核兵器を所有し、急激に近代化が進んで将来は相当な兵力投入能力を持つはずの巨大な国防軍を持ち、広大な国土と巨大な人口と豊富な資源を持っていて、経済的繁栄に向かっているという事実に基づいてなされている。香港の復帰は中国のすでに巨大な経済力を更に強化した。今後30年から50年の間に、中国は米国に追い付き世界最大の経済大国となり、アジアで支配的地位を占め、新しいグローバルな超大国に成長し、巨大な中産階級を抱え、これが中国の市民社会を下支えするといった予想がそれだ。

 

しかし、これには現実の検証が必要となる。中国の経済改革はなるほど結果的に成功を収めたが、改革の深さや幅、それにその成果が継続するかどうかについては疑問が残る。

大企業は未だに国家の管理下にあり、その効率は極めて低い。中国企業は、企業のグローバル化、革新能力、先端技術といった点では韓国や台湾の企業に劣っている。経済改革は未だに中央が管理する大きな政治的不安定性を秘めた環境で進められれている。将来のある段階で、開放経済と厳格な統制下にある政治システムとの間に存在するパラドックスは全面的な矛盾を露呈する可能性がある。換言すれば、中国は共産主義のソ連を破壊した経済的、政治的危機にこれから直面する可能性を抱えているのだ。我が国インドのような、契約の神聖さにその基礎を置く法制と、それを支える独立した司法制度といったものは、中国にとっては未だに遠い将来の目標である。国土の面積と人口の大きさからして、中国は中産階級社会であったり中型の国家ではありえない。ここ当分の間は、米国が指導的なグローバル規模の国家、日本はアジアの指導的国家であり続けるだろう。中国の国力とアジアでの影響力と競合する諸国には、日本や米国の他にロシアやインドが加わるだろう。

 

 

 

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