それにもかかわらず、共産主義ソ連の崩壊は、同時的に中国で共産主義イデオロギーの中庸化が起こり、中国が経済改革を通じて市場経済に移行する公約をするに至って、太平洋地域で米国が維持してきた同盟関係の基礎は掘り崩され始めた。日本、韓国それに台湾との安全保障同盟の目的が地域の平和と繁栄であるよりは、同盟が太平洋地域の周囲をめぐる中ソの共産主義帝国の一枚岩を封じ込めるための手段だと言うよりはるかに説得力に欠けるからでる。
NATO拡大問題についての占い師達の言が正しいとすれば、ヨーロッパの安定化はこの地域での米国の安全保障努力の無駄な拡散を防止し、アジア太平洋地域でも米国が積極定に地域安全保障に貢献するのを助長し、ロシア勢力を確実に封じ込め続けるだろう。しかし、この最後の点に関して言えば、アジアの同盟国の一部にとっては、もし彼らにとってはロシアの脅威の復活への共通の恐れから米国との同盟を求めたのであれば、同盟関係の意義は減少することになるだろう。そして、もしソ連の脅威の消滅と共に米国が中国に対して妥協的政策をとる場合には、この地域での米国との同盟システムはほつれを見せるだろう。西側との冷戦がらみのパートナーシップはアジアでは時の経過と共に次第に色褪せるだろう。と言うのは、二度の世界大戦や冷たい戦争の影で成長したり、この時代を経験した世代が持った感情的な執着心を若い世代は持ち合わせては居ないからだ。軍事同盟への真摯な責任感は薄れ、それが通商問題での対立や政治的紛争の解決に役立つこともなくなろう。
もしNATOの拡大に関する災厄を予言する者達の言葉が正しいならば、ヨーロッパの不安定化は、絶え間無い緊張の継続で米国の国力を次第に蕩尽させ、ヨーロッパ的秩序から未だに核武装を持つロシアを疎外し、遂にはロシアをしてアジアに新しい戦略パートナーを求めるか、アジアの近隣諸国に対して自国防衛のために新たな敵対的態度をとらせるに至るだろう。現在の時点では、ロシアが拡大NATOを受け入れ、平和共存を計る可能性は高いとは言えない。この結果生まれた不安定性は太平洋地域に最も大きな影響をもたらすだろう。例えば、もし過激な民族主義がロシアで勃興するならば、日本が北方領土を回復するチャンスは大きく減退するだろう。もしNATO拡大が過激な民族主義を刺激するに最も有効なシンボルなのであれば、それは日本にとって重要な象徴的価値を有する問題を直撃して有害な結果を生むだろう。
そして、もし中国が国際社会に受け入れられ普通の国となれなかった場合、不機嫌なロシアと国力を付けつつあり中国はアジア太平洋地域での米国の優位を邪魔する行為に出る可能性がある。アジア諸国にとって、この場合米国との同盟関係を必要とする基礎条件は存続するわけだが、この地域は緊張関係の再来という対価を支払うこととなる。