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日米の戦略的パートナーシップは、日本に駐留している米国軍事力の現在の水準を恒久的に維持することを含めた米国によるアジア太平洋地域での軍事的関与とプレゼンスの継続が必要条件となる。この二国間の協力関係は、テクノロジー協力や器材の相互互換性の拡大や、この地域で発生する危機を抑止し、危険が発生すれば日本からの作戦展開を可能とすることで日米の共同防衛作戦の遂行能力の信頼性と実効性の向上を計る等、今後更なる発展を見込む余地が残っている。

 

日米関係のまつわる問題は、両国関係の基礎の部分に起こった変化への、現在も進行中の調整努力を反映している。日本は冷戦の主たる受益国の一つであった。冷戦の終結とソ連の脅威の消失の結果、米国は日本との関係で商業的利害よりも戦略的利害を重視する必要はもはや無くなったのだった。冷戦中は、米国は、二つの巨大な共産主義国が支配するアジアにおける日本との戦略的パートナーシップを構築する代償に日本の輸出産業に対して寛大な態度で自らの国内市場を開放した。しかし、この戦略同盟の基礎が霧散した今日ではこのような政策はその合理性を失ったのである。

 

アジア太平洋地域でNATO拡大が生む複雑な影響

Ramifications of NATO Enlargement for Asia-Pacific

 

ここで今まで進めてきた論点を整理しておこう。NATOの拡大に対する賛成論者と反対論者の間でみられた議論は未だに決定的な結論を生み出してはいないが、すでに拡大は実際の行動に移された。同盟の力学は大西洋と太平洋の両地域では本質的に相違しており、それは今世紀の全期間にわたってこの二つの紛争の舞台では相互にまったく独立した地政学的決定要素が存在し続けてきたという事実を反映している。アジア太平洋地域の国際関係の形状と特徴は刻々の変化に富み、不確定要素に満ちている。このような状況の下では、NATOの拡大がアジア太平洋地域に与える可能性のある影響について行う予測は、最初から単なる予想の域を出ず、暫定的なものとならざるを得ない。

 

NATOの拡大が米国がヨーロッパの安全保障に対して責任をもち続ける代償として支払われる対価であるならば、それは米国と同盟関係にある太平洋地域の諸国(日本、韓国、台湾)に対してどのような意味を持つだろう? そしてそれは、潜在的敵国にとってはどのような教訓を意味するのだろう? 冷戦時代を通じて、ソ連の脅威が余りにも明瞭で切迫したものであり、比較的安定していたグローバルなパワーバランスの故に敵対する両陣営の構成内容には余り変化が見られなかった30。すでに論じたとおり、冷戦の終結はアジアではヨーロッパほどの変化を生まなかった。もしヨーロッパに対する米国の防衛責任がNATOの拡大の結果不確かとなる場合には、アジア太平洋地域の安全の保障人としての米国に対する信頼度にも疑問が投げかけられるだろう。

 

 

 

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