米国は人類の歴史の中で最も強力な軍事力を持った国家である。その軍事力が、米国に大戦争を遂行する能力を与え、戦争に至らずして敵対国を抑止する力を持ち、同時に平和時に必要な多様な軍事的要求に応える能力の保有を可能としている。地上兵力の海外派駐能力は、米国がその同盟国の防衛に示す決意の最大級の意思表示なのである。米国海軍と海兵隊は、その兵力を急速に展開して、安全保障環境の悪化に対する米国の関心を実際行動で示す能力を保持している。また米国空軍力は、自らが侵略者を懲罰する能力を増加させると共に、卓越した海上輸送能力と空挺輸送能力によって希有の兵力集中投入能力を誇示しており、これが米国の高い信頼度を持つ介入能力を支えている28。
しかし、アメリカ合衆国といえども、単独では今日の世界で自らが負った責任のすべてを遂行することはできない。自国の軍隊の削減が続く中で29、米国は、世界の危険地域に前方基地を設け、必要資材、器材を集積し、必要なインフラ(十分な港湾設備や空港)の確保を通じて急速な展開能力を保持することで信頼度の高い『兵力集中投入能力』の維持を計らねばならなない。同盟関係は、実際の作戦の場ではその都度組み立てられる安全保障協力関係に置き代えられる。それを構成する国々は地域毎に異なるだろうが、その中核部分は米国、NATO、日本、オーストラリア、および、目的を同じくするそれ以外の民主主義国家だろう。湾岸戦争が示し、ボスニア紛争が再確認した二つの真理がある。すなわち、米国は他の同盟国なしには指導力を発揮できず、他の西側諸国はまた米国の指導力なしには行動を起こさない、という事実がそれだ。『水平線の彼方の』米国の軍事力の戦略的プレゼンスという背景が存在している場合、同盟国は自国の領土を自らの自衛能力の限界まで防衛する責任を持つ用意があるという場合には、米国がアジア太平洋地域の平和と安全保障に今後も継続して責任を負ったとしても、それは米国の国益と立場に合致したものである。
アジア太平洋地域を覆う既存の防衛リンクは、すでに米国が当地域に対して負う安全保障上の責任を支援するのに必要な政治的、戦略的インフラを提供している。この中でも最も重要なのは日米安全保障条約である。日本と米国はアジア太平洋地域、いや世界全体にとって不可欠な重要性を持つ国々であり、両国の世界第一位と第二位の経済規模を合わせると、世界の総生産(GWP)の40%にも相当する。米国は世界最大で、最も富裕で生産性が高く、最も革新性に優れ、均衡のとれた経済大国である。日本はと言えば、世界で最大の余剰貯蓄の源泉であり、世界最大の資本投資国であり、製造工業部門の組織運営とテクノロジーにかけては世界のリーダーである。米国は最も普遍性に富んだ、そして日本は最も非凡な近代社会なのである。
急激な変化と不安定性が常の時代には、日米間の安全保障体勢はアジア太平洋地域の平和と安定にとっての唯一で最も重要な支柱なのである。この地域の環境は躍動的なダイナミズムに溢れているので、固定的で過去にこだわる二国間の同盟関係では、地域の安定に寄与することができないのだ。