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このような地域間での成功事例の移転を困難にしている理由の一つは、ヨーロッパが大陸であるのに対して、アジア太平洋地域は主として海洋地帯であるという事実だろう。歯止めの掛からない軍備拡張は、ヨーロッパと違ってアジア太平洋地域には複数の脅威の源泉が存在しているこをと示している。アジア太平洋地域の多様な文化、発展の落差が生む亀裂、地域紛争が織り成す万華鏡は、ヨーロッパで可能な単一の安全保障機構を大西洋両岸に適用するといった単純な方法を許さない。例えば南シナ海では、南沙群島やパラセル群島を巡って六ヶ国によって相互に異なる領有権の主張がなされている。NATO加盟国はそれぞれ自国の海軍を保持して海洋での権利確保の能力を有しており、海上輸送路の確保と防衛のための多国籍作戦といった領域での協力が可能だ。これと対照的にアジア太平洋地域では、海軍力はそれぞれの国の沿岸警備や、特定水域での他国船の航行禁止といった任務に当てられている。

 

結論としては、冷戦の帳がアジア太平洋地域から取り払われるに従って、単純明快な冷戦時代の均衡は、より複雑な地域内での拮抗関係に取って代わられ、地域での国家と民族を分ける断層線はかつてない明瞭さで表面に現れた。

 

中心的役割を果たす国家群

The Lead Players

 

アジア太平洋地域の驚くべき多様性はまた、極めて顕著な(相異なる参加国家群の数と相互作用の多さからくる)複雑性と、(信頼度の高い情報と知識の不足からくる)不安定性をも併せ持っている。アジア太平洋地域は、過去三十年の期間に革命的な変化を経験したが、今後の三十年にも同じ程度に大きな変化を体験するだろう。ある場合には、変化は過去のそれの拡大再生産という形で進むだろうが、それ以外の場合には、過去から現在までに見られた傾向からの飛躍的な離脱と乖離も見られるだろう。このような警告を発した上で言えることは、2020年までにはアジア太平洋には米国、中国、および日本という三国が主要な役割を果たす国家として登場するだろうと考えられる。それに次ぐ中型国家としては、インド、インドネシア、統一韓国、それにマレーシアが挙げられよう。ロシアは、第一か第二の分類に入るか、或いはこのいずれの範疇にも入らぬこととなる可能性もある。従って、そこにはより複雑な、多極的な国家群の組合せが考えられ、正確にその内容や行動を正確に予測することは不可能であるが、それが当該地域の国際関係に巨大な影響を与えるのは必至であろう。

 

 

 

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